FEATURE1 モーターショーをはじめる前に

 大小合わせて年間50はあると言われるモーターショー。そのうちデトロイト、ジュネーブ、パリ、フランクフルト、東京の5つが世界5大モーターショーと呼ばれている。

 アメリカにもフランスにもドイツにも、もちろん日本にも自動車産業があるが、スイスは自国に自動車産業をもっていない。そう考えるとちょっと不思議だが、先日取材したジュネーブショーは100年以上の歴史をもち、いまなお国際モーターショーとして確固たる地位を保ち続けている。定かではないけれど、永世中立国という国の在り方が関係しているのかもしれない。

 どの国のモーターショーも自国メーカーを優先する傾向があるが、ジュネーブショーはどの国のメーカーに対しても公平な扱いをする。自国に自動車産業がないことが、逆に「公平さ」という特色を生みだしているのだ。

 さて、今年は東京モーターショーの開催年だ。一昨年は入場者数が90万人を超え、一定の成功を収めた。しかし最近は東京モーターショーをドメスティックなショーだと捉え、代わりに中国のモーターショー(上海と北京の交互開催)に取材に行く海外プレスが増えている。これは由々しき事態である。全世界から多くのプレスが取材に訪れる国際モーターショーは、ブランドイメージや技術戦略、商品戦略、ひいては開催国の元気ぶりを広く発信する絶好の機会でもある。そういう意味で、日本が自動車大国である以上、東京モーターショーの地位を中国に譲るわけには絶対にいかない。

 ならばどうすればいいのか? そのヒントは、自国に自動車産業を持たず、さりとて中国のような巨大マーケットも持たないスイスのモーターショーがなぜ国際モーターショーとして盤石の地位を保ち続けているのか、という点にあるのではないだろうか。前回の東京モーターショーを思い起こすと、トヨタのブースにはドラえもんのどこでもドアや、トヨタのテレビCMに出演している芸能人の人形が置かれていた。日本人にはそれなりのインパクトがあっただろうが、旧知の外国人ジャーナリストは「いったいなんなんだ?」と、呆れていた。日本人の、日本人による、日本人のためのモーターショーであればそれでもいい。しかし国際モーターショーとしての地位を保ち続けたいなら、海外への発信という意識をもっと強くもつ必要がある。

 ジュネーブは「公平さ」という方法論を選んだが、日本ができるのは環境技術や先進安全技術、あるいは自動運転技術といったハイテクだ。たとえばショー会場だけでなく、会場周辺の一般道を特区扱いにして自動運転の公道デモンストレーションを許可すれば、日本メーカーはもちろん、海外メーカーも参加してくる可能性が高い。次世代技術を見るなら東京。そういった他にはない特色が付けば、東京は国際モーターショーとして存在感を発揮し続けることができるだろう。

文・岡崎五朗


定期購読はFujisanで