オンナにとってクルマとは vol.55 母としての目線

 日に日にふくらみを増し、重たくなっていく自分のお腹に後押しされるように、出産の準備をしている。本誌が発行される頃には、産まれている予定というタイミングだ。

 およそ10ヵ月前に小さな命を授かったことがわかると、周囲の何人かから「妊婦がクルマに乗るのはよくない」と心配や忠告をいただいた。でも、とくに医学的根拠はなさそうだし、私の生活は仕事もプライベートもクルマに乗るのが当たり前のこと。だからこの際、マタニティ・カーライフにはどんないいこと、わるいことがあるのかを体感してみよう。そんなふうに思ったのだった。

 妊婦は想像していた以上に、してはいけないこと、しなければならないこと、食べてはいけないもの、飲んではいけないもの、と制約が多い。ホルモンバランスの影響で、自分の意志に関係なく情緒不安定にもなる。そんな時に、クルマという半プライベート空間で好きな音楽をかけ、のんびり景色を見ながら走るのは何よりの癒しタイムになった。でも一方で、いつもお腹の張りや痛みなどを気にして、神経質になっている自分もいた。

 いちばん変化したのは、道路の舗装の悪さや凹凸物による振動や、硬いタイヤの乗り心地、サスペンションの動きなどからくる鋭い挙動に、とても敏感になったこと。無意識にお腹に負担をかけまいとかばっているために、力を入れて踏ん張れなかったり、バランスをとるのが大変だったりするからだ。きっと妊婦だけでなく、障害や持病を持つ人や筋力が衰えたお年寄り、骨格ができあがっていない乳幼児なども、こんなふうに敏感に感じているのかもしれないと思ってハッとした。

 そんな時に目にしたのが、国交省が生活道路の安全対策を強化するために、車両の通過速度を下げるハンプ(凸部)やクランクなどの構造物を増やすことを、有識者による委員会を新設して議論するというニュース。実はそうした減速効果を狙ったハンプは、通過する時の振動がとくに不快だと感じていたところだった。それを、心ないルール違反者を減らすためとはいえ、むやみに増やされたらたまらない。できればもっと別の方法で、生活道路の安全と身体に負担のかからない道路を両立することを考えてもらえないだろうか。

 そして助手席に乗ることが多くなった今は、丁寧なハンドル操作、ペダル操作をしてくれるドライバーが、どれほどありがたいかを実感している。自分ももうすぐ、誰かのために運転する毎日がやってくる。この気持ちを忘れずに、丁寧にクルマと付き合っていきたいと思う。

文・まるも亜希子

Akiko Marumo

自動車雑誌編集者を経て、現在はカーライフジャーナリストとして、雑誌やトークショーなどで活躍する。2013年3月には、女性の力を結集し、自動車業界に新しい風を吹き込むべく、自ら発起人となり、「PINK WHEEL PROJECT」を立ち上げた。

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