F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.52 エンジニアのチーム体制

 シーズン開幕以来、メルセデスAMGの快進撃がつづいているが、トラブルと無縁というわけではない。第9戦イギリスGPでは、スタートからトップを快走していたニコ・ロズベルグ車にトラブルが発生した。

 52周レースの29周目、ロズベルグのマシンは突如スローダウン。ロズベルグによれば、ダウンシフトの異常が20周目頃から発生し、徐々に症状は悪化していったという。

 狙いを「優勝」から「完走」に切り換えたロズベルグは、無線でピットとやりとりしながらステアリング上のボタンやダイヤルを操作し、制御の切り替えで生き残るための行動に出た。ところが状況は好転せず、レースを諦めざるを得ない状況になった。マシンを止めたロズベルグは、しばらく車内にとどまり、コースに復帰するための努力をつづけた。

 ピットウォールに腰掛けるエンジニアがモニターで戦況を見つめながらドライバーとやりとりする姿は、テレビでもおなじみだ。どのチームにもドライバーには担当のレースエンジニアがおり、戦況に応じて的確な指示を出す。ロズベルグのマシンにギヤボックストラブルが発生した際、彼に直接指示を与えたのは担当エンジニアである。

 そのレースエンジニアに、指示のもとになる情報を与えるエンジニアがいる。ガレージの裏は臨時のオフィススペースになっており、ここに10名をゆうに超えるエンジニアがいて、マシンが搭載する各種センサーが高速無線通信で送ってきた大量のデータをリアルタイムで分析。そのデータを元にトラブルの原因を推測しつつ善後策を考え、ピットウォールにいるレースエンジニアにアドバイスを送るのである。

 それだけではない。イギリス・ブラックレーにあるファクトリーにはレースサポートルームと呼ばれる一角があり、ここでは現地と同じ情報が得られる態勢を整えている。ロズベルグにトラブルが発生した際は、レースサポートルームに詰めていたエンジニアも車両データやドライバーとレースエンジニアがやりとりする無線交信を参照し、善後策を協議した。F1はまさに総力戦である。

 チームの必死の対応も実らずロズベルグはリタイヤしたが、次に向けた動きは早い。筆者はレース翌日にメルセデスAMGのファクトリーを訪れ、ガラス張りのレースサポートルームを廊下から覗き込んだ。そこにはレースエンジニアと話し込むロズベルグの姿があった。

 その後足を運んだワークショップでは、白衣に身を包んだエンジニアらを中心に、ファイバースコープを用いてギヤボックス内部を綿密に検査しているところだった。気を緩めた途端にライバルは追い上げてくる。快進撃をつづけているからといってのんびり構える余裕はない。

各マシンはパワーユニットやクルマの動きをモニターするための各種センサーを搭載している。これらのセンサーが得たデータは、高速無線通信を通じ、リアルタイムでピットに送られる。そのデータ量は1レースで数十ギガバイトにも達するという。各種車両データはピットを経由し、イギリス・ブラックレーにあるチームのファクトリー(写真)と、ブリックスワースにあるパワーユニット開発の拠点にも送られる(どちらもシルバーストンサーキット近郊)。充実したバックアップ態勢もF1ならではだ。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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