昨年秋、フランスのテレビ局の日本での撮影を一部お手伝いした。モーターショーに絡めて東京の自動車シーンを紹介しようというものだ。
これが大変だった。台本などあってないようなもので、その場の思いつきで次から次へと撮影を始めるから、全行程に同行した通訳の日本人女性は振り回されっぱなし。時間が押して次の取材をドタキャンせねばならず、先方から電話で罵声を浴びせられたりしたらしい。
だからこそ半年後、忘れた頃に送られてきた放映分の映像を見て驚いた。好き放題に撮影していたように見えて、実は一貫したストーリーに仕上がっていたからだ。フランスらしいなと思った。
シトロエンが自らのプレミアムシリーズとして送り出したDSラインに、どこか通じるところがある。
第1弾のDS3はプレミアムコンパクト、続くDS4はクーペとSUVのクロスオーバー、そしてフラッグシップのDS5はグランツーリスモと、パッケージングはすべて異なる。でも3台揃うと、シトロエンのブランドイメージである革新性を究極まで追求したシリーズというコンセプトがクリアになる。
DS3カブリオのモノグラムのソフトトップは、今も見るたびにドキッとする。DS4が提案したクロスオーバーのジャンルは、フォロワーが続々登場している。DS5のプロポーションやコックピットは、他に似たものを探すことさえ難しい。
DSらしさを突き詰めるには、セグメントごとに異なる手法が必須だったのだ。でもこうやって3車3様のパッケージングで出てくるからこそ、革新性がより強調されるし、次はどんな世界を見せてくれるのだろうという期待が生まれる。
ただしシトロエンが考える革新とは、表面的なスペックで表せるものではない。もっと内に秘めたメッセージである。だからDSライン3台の見た目や走りに、1955年にデビューしたオリジナルDSの面影はほとんどない。
たとえばDS5に対して、なぜハイドラクティブサスペンションを導入しないんだという声も聞く。だが60年近く前にオリジナルDSがデビューしたときは、たしかにあのサスペンションはとても革新的だったけれど、2014年の現在はそうではない。それに今っぽい走りのトレンド、つまりスポーティーさを表現するには適さない。だから金属バネとしているのだ。
DSラインがオリジナルDSから受け継いだのは、機能的な革新性ではなく、精神的な革新性なのだ。そういう意味で3台はまったくブレていない。オリジナルDSと同じ、進取の気風にあふれている。