カテゴリやジャンルがはっきりしていれば、相手に伝わりやすく、理解されやすい。そして受け入れる側も迷いを持たずにすむ。しかしここ数年、カテゴリの区分けが難しいモノや、新しいジャンルも増えてきた。クルマやオートバイに限った話ではないが、数字だけでは計れない部分や、言葉化しにくいニュアンスこそが判断の決め手だったりもする。感性を研ぎ澄まし、自らの意思や価値観で物事を判断していくことが必要な時代になってきているのだ。
SECTION 3ボーダーを埋める時代
女性の男性化と、男性の女性化。最近ことあるごとに出てくる話題だが、僕はこれを当然の成り行きだと考えている。
大昔がどうだったかは知る由もないけれど、第2次世界大戦後、男女格差が以前より小さくなり、自由に恋愛できるようになったおかげで、いままでより異性を深く知ることになった。その結果、相手の良い部分に気付き、羨ましいと考えたりするようになったのだ。これが女性の男性化や男性の女性化につながっているのではないだろうか。
男女に限った話ではない。異なる2つのモノが存在すると、時が経つにつれ、相手に影響されたり影響したりして、互いの距離が縮まり、隙間が埋められていくのは、自然の摂理ではないかと思う。
とくに〝モノづくり〟は、同じジャンルに後から参入しても勝ち目は薄いことから、一部の作り手はニッチ狙いに走ることがある。一方のユーザーは、生活が豊かになるにつれて、無い物ねだりの要望を出してきたりする。なかにはそれが大化けして、ひとつのジャンルにまで成長したりするから、ぞんざいに扱えない。最近で言えばタブレット端末やミラーレス一眼レフが好例だ。
もちろんクルマの世界でも、ニッチ商品が次々に登場している。いちばん分かりやすいのは、その名も〝クロスオーバービークル〟ではないだろうか。ハッチバックやワゴンとSUVの間に位置する乗り物だ。SUVという言葉が日本ではまだ一般的ではなく、クロスカントリービークルと呼ばれていた頃、それはハッチバックやワゴンとは、メカニズムからドライブフィールまで、まるで違うクルマだった。前者はオンロード、後者はオフロードを活躍の場と想定していたのだから当然だ。
ところが多くの人は、オフロードへ行くにはオンロードを走らねばならない。さらにはSUVの逞しいカタチは好きなので、大味な走りを何とかしてくれというワガママも出てくる。そこで舗装路での乗り心地やハンドリングを重視するSUVが出始めたのだ。
それらはたちまち支持されて、近年はハッチバックやワゴンをベースにオフロード能力をトッピングした逆転の発想的モデルまで出てきた。いまやハッチバックやワゴンとSUVの間はビッシリ埋め尽くされて、隙間など存在しないかのようだ。
それでいい。それだけ多くの人にとっての理想の1台が生まれているはずなのだから。逆に首を傾げてしまうのは、個々のモデルについて、「これはSUVなのか?」とか「ワゴンなのかSUVなのか分からない!」とツッコミを入れる人たちだ。
ジャンルって、そんなに大切なものなのだろうか。ジャンルに振り回されて、モノの本質を理解できなくなってはいないだろうか。ジャンルの境目が見えにくくなったら、ノージャンルで考えればいい話ではないだろうか。
たとえばコートを買うときに、トレンチにするかダッフルにするか、ジャンルを決めてから買う人は多いかもしれない。ところが雑誌で見たトレンチを買おうと決めて行った店で、違うジャンルでそれ以上の逸品に出会うこともある。そんなとき、決め撃ちで買い物に行ったときほど、気持ちの切り替えに苦労するだろう。そもそも買い物とは、自由な行為だったはず。なけなしのお金をはたいて手に入れるわけだから、ジャンルなんかにとらわれず、自分の好きなものをストレートに買えばいいだけのことじゃないか。
僕自身、どのジャンルに入るか分からないクルマに乗っている。〝ミニバンがベースのクーペ〟という、前代未聞のコンセプトで生まれた「ルノー・アヴァンタイム」だ。世界レベルでは圧倒的な不人気車で、2年間に約8000台を作っただけで生産を終えてしまった。失敗作なので追従者は出なかった。ジャンルで捜しはじめたら辿り着けない1台だっただろう。そんなクルマに、かれこれ10年乗っている。背が高いほうが使いやすいけれど、ミニバンは生活臭が強すぎるので乗りたくない。2人家族だからドアは2枚でいいけれど、ネコも2匹いて一緒に旅行するから荷室は広いほうがいい。そんな要求にドンピシャなのだ。しかもミニバンのクーペはこれだけ。 代わりがないから乗り続けるしかない。いわゆるニッチ指向ではない。ハッチバックやセダンの本流を極めたようなクルマにも好意は持っている。ようするに本流か亜流かは関係なく、自分が欲しいクルマを追い求めて行った結果なのである。
1999年のジュネーブショーで発表されたプロトタイプほぼそのままに2001年に発売された。ルノーのミニバンとも言える「エスパス」のプラットフォームをベースに造られた稀少車。
ジャンルがきっちり分かれていた方が、それに頼ってモノ選びをすればいいので楽かもしれない。でもノンジャンルなプロダクトが増えた今、その方式は通用しにくくなっている。というか、理想の1台を取り逃がす恐れさえある。
じゃあどうすればいいか。感性を研ぎ澄ますこと。それに尽きる。自分はクルマに何を求めるのか。どんな場面で乗るのか、それをとことん考えて、最適の1台をとことん捜すのだ。こんなに多種多彩な顔ぶれなのだから、たぶん理想の1台と出会えるはず。ジャンルで捜しても理想のパートナーは見つからない。それは人もクルマも同じだ。
「ボーダーレスの時代」の続きは本誌で