欧州でSRが復活した理由

 ヨーロッパでSRが再び販売されることになった。EICMA(ミラノショー)のヤマハブースではスタンダードのSR400と共に、カスタムビルダーによって設えられたカスタムSRが並び、大いに注目を集めていた。SRは’80年代中頃まで、主に〝500〟が欧州に輸出され、ドイツではベストセールスを記録していたこともある。

 ドイツでは、最高出力によって保険金額が定められるので、馬力よりもトルクを重視したSRは保険代が安くなるのだ。また単気筒エンジンとスタンダードなスタイルが幅広い年齢のユーザー層に受け入れられたということもあっただろう。

 それから約30年。日本国内で地道に進化を続け、ついにはフューエルインジェクションを搭載したSRは、日本の厳しい規制に対応してきたことで、再び欧州で闘うプレーヤーに指名されたのだ。

 もちろんヤマハには、マーケットでの勝算があるのだろう。それは何か。

 ひとつは、欧州でのカスタムカルチャーの興隆だ。チョッパーだとかカフェだとかトラッカーだとか、今までのスタイルにハマらない、その〝ニューエイジ〟カスタム・シーンの周りには、ファッションやアートなど、さまざまなジャンルのクリエイターたちが入り乱れ、そこから生まれた作品はネットワークで繋がる世界中の若者たちにリーチし、若いライダーたちを生み出すきっかけとなっている。ビルダーたちは、’80年代の古いSRを探す必要がなくなり、環境性能と基本性能を高めた最新のSRが手に入るのだから、このシーンはさらに活気づくはずだ。

 もうひとつは、欧州二輪マーケットの変化。具体的に言えばユーザーの高齢化だ。ワインディングもツーリングもハードにこなしていた欧州市場を牽引したタフなライダーたちもさすがに歳を取った。それとオーバーラップするように欧州の経済も悪化してきた。結果、今までと同じ展開では行き詰まってしまう。

 そうなるとラインアップも変化させる必要がある。デイリーでも使いやすく、ユーザーフレンドリーで、テイスティーなバイクが増えてきた理由はここにある。

 ここまで読んで気付いた人もいるだろう。今の日本の二輪市場そのものなのだ。しかし日本は、その現状を打破するためにもがき続けた。その結果、独自の進化を果たしている。

 カスタムシーンにおいて、日本はすでに世界の先頭を走っている。細部のクオリティの高さはもちろん、発想の豊かさも日本が抜きん出ている。またライダーの高齢化においても日本は世界の先頭を行く。それに対応するようにツーリングアイテムが充実し、バイクを絡めたライフスタイルの提案が積極的に行われている。これらの進化やコンテンツ化も、日本は世界を牽引している。

 それらを見ていると、今後日本は、世界の二輪マーケットにおいて情報発信の中心となり、手本となるだろう。SRの欧州再販は、その縮図のスタート地点に着いたことを表している。そんな風に考えると、日本でバイクに乗ることがとても楽しく思えるのだ。

文・河野正士


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