「これまでの暮らしとこれからのくらしを巡る旅」の第2回で取り上げるのは、ミサワホームが提案する移動式トレーラーハウス「MOVE CORE(ムーブコア)」だ。
このプロダクトの原点は、実は遥か彼方、南極の地にある。
ミサワホームは1968年の南極・昭和基地建設のサポートを皮切りに南極での活動を始めているが、「MOVE CORE」は、現地で活用された「南極移動基地ユニット」をルーツとしている。
マイナス45度の酷寒やときに風速60m/sに達するブリザードに耐え、雪上車に牽引されて1,000kmもの荒野を走破する――。宇宙探査までを見据えて磨かれたこの「動く拠点」は、いかにして誕生したのか。そして、災害大国である日本において、住まいの未来にどのような可能性を切り拓いていくのか。第51次南極地域観測隊(越冬隊)への参加経験を持ち、現在は同社でR&D戦略の最前線に立つ秋元 茂氏に話を伺った。

2019年末から始まったとされる「新型コロナウイルス(COVID-19)」の流行は、文字通り私たちの生活を一変させた。
外を出歩くにはマスクは欠かせず、ミーティングは対面からオンラインへと軸足を移した。世界的に大きな犠牲を伴ったが、その後のテクノロジーの進化を見れば、人類は危機を乗り越え新たな生活様式を生み出したとも言える。
筆者もコロナ禍を機に、「都心駅近」という“ビフォア・コロナ”の価値観から離れ、郊外に家を建てた1人だ。リモートワークが中心となったため、最寄り駅は徒歩20分、都心へは電車で1時間半。しかし、都心を離れた分、土地代を抑えることができ、理想の家とライフスタイルを手に入れることができた。
家を建てて実感したのは、家とはまさに不動産、つまり「物理的に移動できない財産」ということだ。賃貸であれば環境の変化に容易に対応できるが、持家は一生もの。一生ものなのに、容易に改変ができないのが家なのだ。クルマであれば買った後に自分好みにカスタマイズできるし、ライフスタイルが変われば乗り換えられる。
しかし家はそうはいかない。家族が増えたからといって部屋を増やすことは簡単ではないし、広い庭が欲しくなっても土地のスペースには限りがある。そして何より、住み替えには手間も時間もかかる。家を持つということは、人生において固定点を作ることであり、それは安心感につながると同時に、変化のスピードの早い現代社会においてある種リスクにもなり得るのである。



さらに日本は災害大国だ。一般財団法人国土技術研究センターによれば、2011年~2020年におけるマグニチュード6以上の地震のうち、全世界の17.9%が日本周辺で発生しているという。さらに、急峻な山々に囲まれ雨も多いため、場所によっては度々洪水にも見舞われる。
家を建てる過程で、地盤の強さや氾濫の危険度など、土地選びは住みやすさだけでない様々な要素が大事なのだと知った。災害に強い家を提案できるかというのも、住宅メーカーを選ぶ1つの基準となったのは間違いない。
筆者が住宅メーカーを探しているとき、多くの住宅メーカーの中でミサワホームはいい意味で異色に映った。木造住宅といえば大工さんが一棟一棟作るものだと思っていたが、「工業化住宅」を標榜し、モノコック構造をベースとした高断熱・高耐久の「木質パネル接着工法」や、「邸別工場生産」を採用した高精度な家づくりなど、まるで最新の自動車を作るように家を作っていたからだ。
そして、南極・昭和基地に長年ミサワホームの技術が使われている点にもワクワクした。最低気温マイナス45度、最大瞬間風速60mにも達する過酷な大地で、ミサワホームの技術は隊員たちの命と生活を長年守り続けてきた。筆者にはそれは、ほとんどライフラインとしての役割を担いながら世界中で活躍しているトヨタ「ランドクルーザー」の姿と重なる。その揺るぎのない事実は、大きな安心感につながり、それがブランドとなっていく。

そんなミサワホームは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や国立極地研究所と共同で「持続可能な住宅システムの構築」を目指し、南極で新たな実証実験を行なっていたのをご存じだろうか。
第51次南極地域観測隊(越冬隊)の一員として南極に渡った経験を持つ、ミサワホーム総合研究所の秋元 茂氏は次のように話す。
「日本は南極でさまざまな観測を行っていますが、その理由の1つには“環境問題”があります。南極の氷は降り積もった雪が圧縮されて凍ったもので、雪が降った当時の空気が気泡として含まれるのが特徴です。氷の中の空気を調べることで、当時の気候や環境が分かります。過去の地球を知ることで、結果、未来の地球を予想することができるようになるんですよ」
日本は南極に、昭和基地のほか「ドームふじ基地」など4つの基地を持っている。ドームふじ基地は南極大陸の最高峰の1つ「ドームF」に位置し、標高は3,810m。3,000mほどの氷床があり、その氷床からはおよそ100万年前の氷が取れるという。
「ドームふじ基地に行くには、昭和基地から1ヵ月かかります。青い空と白い大地が延々と続く約1,000㎞の道のりを、編成を組み、途中ではキャンプを張り睡眠をとりながら進むのですが、移動の際の雪上車内は2人きりになることも多々あります。そんな生活が約1ヵ月続きます。
寝泊まりは雪上車の中。エンジンをかけっぱなしにすると一酸化炭素中毒になってしまうので、エンジンを切って防寒着を着て毛布にくるまって寝ます。それだと大変だよねということで、JAXAと共同で『移動基地』を持っていったんです」


「移動基地」というのが、今回取り上げる「ムーブコア」の元となった「南極移動基地ユニット」だ。2019年11月に日本を旅立ち、2020年10月から「第3期ドームふじ氷床深層掘削減計画」の居住空間として利用されてきた。
南極移動基地ユニットには、「センチュリーモノコック」をはじめとする高耐久・高断熱設計のほか、ミサワホームの住宅にも使われるテクノロジーが活用されている。さらに構造物の拡張・縮小性の検証や、センサーを活用したモニタリング技術の開発、太陽光発電などを活用したエネルギー利用の最適化などの実験が行われたそうだ。
「ドームふじに持っていった移動基地は、気密性を特に上げているんです。外がマイナス50度でも、室内は0度ほど。気密性が高い分、中で人が生活すると二酸化炭素が増えてしまうので、二酸化炭素の量を感知してファンが回ったりするような仕組みになっています。
さらに、1,000㎞の移動では、ものすごい量の資材や装備を運びながら1mぐらいの段差を飛び越えたりします。そして雪上車が再発進する際などには、大きな加速度が働きます。そのGは最大で9G。9Gというのはロケットが打ち上がるときに宇宙飛行士にかかる力とほぼ同じ。そのくらい大きな力をかけても壊れないかどうかも重要なんです」
かつてマイナス79度を記録した、地球上で最も過酷な場所の1つと言えるドームふじ基地。そんな過酷な環境で鍛えられた移動基地ユニットは、いまや南極での活動だけにとどまらないのだそうだ。
目指すのは宇宙。そして月面基地へとつながる壮大なプロジェクトなのだ。
「大手ゼネコンなどが宇宙エレベーターや宇宙ホテルを構想していますが、宇宙飛行士という“人”が住むところはやっぱり住宅メーカーだよねということでJAXAからお声がけいただきました。南極という地球の一番過酷なところで事故なくお手伝いしてきた実績が評価されたんですね」
とは言え、月面基地はミサワホームにとっても未知の世界。空気も水もなければ、重力は地球の約6分の1、放射線がダイレクトに降り注ぎ、気温はマイナス170度から110度にまで達する。これまで培ってきた技術が通用しない未知の領域だ。
「よく分からないのにいきなりは難しいから、月面に持っていくような技術を地球の一番過酷なところで実験しているのが移動基地なんです」 ミサワホームの南極での挑戦は、まるで自動車メーカーがモータースポーツを走る実験室として活用し、未来の技術を磨いているのと同じなのかもしれない。そんな過酷な環境で培われた技術をベースに作られたのが、ムーブコアなのである。
次号では、そんなムーブコアが実際にどんなふうに活用されているのかをお伝えする。災害大国日本における意義と、コロナ禍を経て変わった生活様式、そして住宅メーカーが抱える課題に対する答えがムーブコアには隠されている。

MISAWA PARK TOKYO
また住宅展示棟では、環境・地球に貢献し、活持続可能な社会と暮らしを支えるインフラの
1つとしてデザインされた住宅、「グリーン・インフラストラクチャー・モデル」が公開されている。家を建てるわけじゃないから関係ない、と思うかも知れないが、“住まいの今”を知ることは、まさに今、自分の生きている時代を知ることと直結する。それは最新のクルマやバイクが時代を移す鏡であるのと同じ。家を建てる予定がある人もない人も、家族みんなで足を運んでみることをお勧めしたい。


秋元 茂 Shigeru Akimoto(右)
ハシモトタカシ Takashi Hashimoto(左)
