115万円。それが、この「ベスパ946」の価格である。125㏄のスクーターとしては異例に高価だが、イタリア本国でも9000ユーロとなっている。つまり、このところの為替相場に照らし合わせると、相対的にはむしろリーズナブルなほどだ。
車名の〝946〟は、ベスパの量産第一号車「ベスパ98」が発表された1946年にちなんだもの。そして、そのスタイリングは、さらに前身の試作車「MP6」をモチーフにしているという。
だからと言って、単に歴史的なイメージに115万円というプライスタグがぶら下げられているわけではない。
まず、足回りにはABSの他、このクラスでは世界初となるトラクションコントロールシステム〝ASR(=アンチ・スリップ・レギュレーション)〟を装備。また、灯火類には被視認性のための高照度LEDを採用するなど、極めて現代的な手法で安全性が高められている。
一方、昔からベスパを知っているユーザーなら、その手触りに安心感を覚えるに違いない。ボディパネルの多くはプレスされたスチールであり、それらがフレームも兼ねるモノコック構造を継承。スクーターにこれを採用しているのはベスパだけのアイデンティティだからだ。
しかも、基本構造は「98」や「MP6」の時代から変わっておらず、もっと言えばスクーターの生産以前に手掛けていた鉄道や航空機の設計技術がそっくりそのまま転用されたものでもある。
驚くべきはその生産方法で、工場内に専用ラインが設けられ、少数の職人が一台一台、ハンドメイドで組み上げている。その作業には、ハンドルグリップのステッチ縫製からボディの溶接、最後のポリッシュ仕上げまで、あらゆる工程が含まれているのだ。
「先進と伝統」。その混在が「946」というスクーターであり、先進を新技術の開発費へ、伝統を効率的とは言えない人件費へ置き換えてみれば、おのずとその車体価格には納得させられる。
とはいえ、それが不恰好なものであれば、誰もお金など出しはしない。何より「946」が素晴らしいのは、そのスタイリングの出自が歴史上のモデルだという主張に、誰もが納得する一貫性を備えていることだろう。あるいは、それを知らなくとも、明らかに「他とは違う」という印象を抱かせている点にある。
かつての名前やデザインを復刻させるという手法自体は珍しくないが、その名に重みがあればあるほど、リスクは大きい。失敗すれば、世界中の顧客の非難にさらされ、ブランドイメージは失墜するからだ。しかし、ベスパはそれを恐れず、まず流麗さで抜きん出てみせ、そこにヒストリーと希少性を加えて、人々の心を掴んでみせたのだ。
日本への割り当て台数は、正規輸入で僅か20台となる。今後、ベスパの新たなアイコンとしてその名が刻まれるのは間違いないだろう。
価格:¥1,150,000 総排気量:124cc
最高出力:11.6ps(8.5kW)/8,750rpm
最大トルク:9.6Nm/7,750rpm
問い合わせ先:ピアッジオコール TEL:050(3786)2635