編集前記 Vol.37 永遠の嘘をついてくれ

文・神尾 成

本誌がOVER50を名乗り始めて今年で4年目となる。

 当初は読者を50~60代に限定することで、違う世代のウケを考えずに済むとしか思ってなかったが、自分たちを俯瞰で見ることが増えて、むしろ他の世代の生きてきた背景や心情を知ることになった。前回の編集前記で若い人たちがインターネットによって世情を変えたことを書いたが、昭和の大学生たちが日本を変革しようとした学生運動についても触れておきたい。

 高度経済成長の最中に沸き起こった60年代の学生運動は、安保闘争やベトナム反戦運動に煽られて新左翼運動と結び付いて激化した。新左翼とは既成左翼である日本共産党が武装闘争路線を放棄したことで生まれた新興勢力だ。彼らは革命には暴力が伴うという思想(マルクス・レーニン主義)に倣って暴力的な活動を推し進めたのである。だが行き過ぎた武装行動によって世間の共感を失ってしまい、70年代に入ると過激化した一部のグループを除いて運動は沈静化していった。その後、活動に参加した学生たちは元の生活に戻り、今も当時のことを多くは語らない。

 僕はこの運動に参加したほとんどの学生はイデオロギーを抱いていたわけではなく、時代の空気に呑まれただけだと考えている。自分もその場所にいて、そういう年齢だったら学生集会に参加して革命を叫んでいただろう。以前、山下 剛が書いた「80年代にバイクに乗り始めた人は、時代の流行りに乗っただけで自分の意思でバイクに乗った訳ではない」という話と基本的に同じではないかと思うのだ。

 しかし流行に踊らされただけでも、状況に流されて始めたことであったとしても、心の中で命懸けになった瞬間があるなら、それを封印せずに振り返って気持ちを昇華させるべきだ。学生運動もクルマやバイクに情熱を注いできたことも、そのひとつひとつが自分のアイデンティティを形成している。これまで生きてきた中で、何かに熱狂した時間があることは、熱くなれなかった人生よりも格段に良い。

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神尾 成/Sei Kamio

2007年11月からaheadに参画、企画全般を担当している。2010年から7年間編集長を務め、後進に席を譲ったが、2023年1月号より編集長に復帰。朝日新聞社のプレスライダー、ライコランドの開発室主任、神戸ユニコーンのカスタムバイクの企画などに携わってきた。1964年生まれ61歳。

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