編集前記 Vol.35 オフロードバイクコンプレックス

文・神尾 成

栃木県の「つくるまサーキット」で開催されたスズキDRZ4SMとDR-Z4Sの試乗会に参加した。

 前モデルとなるDRZ400の日本での販売終了から16年振りの新型の発売ということもあって、オンとオフのサーキットを貸し切る盛大な試乗会だった。すでにYouTubeやSNSで話題になっている通り、新型DR-Zは期待以上の出来の良さでマニアを唸らせるバイクに仕上がっている。モタード仕様のDR-Z4SMは、身体を外側にオフセットする「モタード乗り」をせずにサーキット走行ができるオンロードスポーツとして完成していた。

 対してオフロード仕様のDR-Z4Sは、試乗会場が四輪用のダートコースだったこともあり、オフロードバイク経験の有無が問われる試乗となった。グラベル専用のトラクションコントロールやパワーモードの切り替えが装備されているとはいえ、ハイスペックな400ccを深い砂利道で操るとなると一定以上のスキルが必要になる。僕自身も転倒しないように走ることしかできず、ダート走行を楽しむまでには至らなかった。

 試乗会を終えた帰路のクルマの中でオフロードバイクに夢中だった頃を思い出しながら、あのまま乗り続けていればもっと上達していたかもしれないと後悔にも似た気持ちが湧いてきた。いっときは多摩川や相模川の河川敷へ頻繁に通い、林道を求めて伊豆や富士山をはじめ北海道にまで遠征していたが、様々な事情が重なって30代の中盤以降はオフロードを全くと言っていいほど走らなくなったのだ。

 今回のオフロードバイクのことに限らず、最近は過去を振り返ってタラレバを考えることが多い。昨年の秋に還暦を越えたせいか、ここまでの生きてきた道のりを無意識に整理しているのだろう。その度に失敗や、やり残したことを思い出して少し痛みを覚えるが、それと同時にこれまでの人生を受け入れはじめてもいる。おかしな話だがオフロードバイクに対してコンプレックスがあることを認めたら後悔の念が消えたのか、もう一度オフロードバイクと向き合ってみたくなった。

神尾 成/Sei Kamio

2007年11月からaheadに参画、企画全般を担当している。2010年から7年間編集長を務め、後進に席を譲ったが、2023年1月号より編集長に復帰。朝日新聞社のプレスライダー、ライコランドの開発室主任、神戸ユニコーンのカスタムバイクの企画などに携わってきた。1964年生まれ61歳。

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