イタリアで発表された「 CONCEPT 90」は、往年の名車「 BMW R90S」をモチーフにしている。
~BMW CONCEPT 90~
ここで紹介するBMWのコンセプトバイク「CONCEPT90(コンセプト・ナインティ)」は間違いなく2013年を代表するマシンとなるだろう。
このバイクは、BMWモトラッドの創立90周年を記念して制作されたのだが、秋から始まるヨーロッパ各国のモーターサイクルショーでBMWが発表を予告している新型ロードスターのティザー的存在でもある。
驚いたのは、このマシンを創り上げたのがアメリカのカスタムビルダー「RSD(ローランド・サンズ・デザイン)」であるということだ。代表の「ローランド・サンズ」は、ビレットカスタムパーツのトップブランド「パフォーマンスマシン」の創業者「ペリーサンズ」を父に持つことから、ハウスブランドとして「RSD」を設立した。スタート当初からハーレー系パーツやカスタムハーレーで名を馳せたのだ。
250クラスで全米チャンピオンに輝くほどのライダーでもあるローランド・サンズは、アメリカンカスタムシーンにおいては珍しく〝乗れる〟ビルダーでもあった。とは言え、Tシャツとデニム、それにVANSのスニーカーを履き、キャップにタトゥーといった彼のスタイルは、ヨーロッパのモーターサイクルマーケットを牽引するBMWのブランドイメージとはかけ離れている。この両者が手を組むきっかけはどこにあったのだろうか。いや、BMWにとって、毛色の違う「RSD」と組むメリットはどこにあるのだろうか。
ここから先はあくまでも推測だが、BMWは強烈なカウンターを必要としているのではないかと思うのだ。数年前、BMWが放ったスーパースポーツマシンS1000RRのデザインとパフォーマンスはヨーロッパを中心に強烈なインパクトを与え、セールスにおいても一定の成果を上げた。しかし欧州も北米も、日本同様、スーパースポーツ市場は厳しいのが実情だ。これから先、先進的なデザインとテクノロジーは、サーキットでは無く、ライダーの生活に近いところで発揮されなければ、株主が喜ぶような継続的な好リザルトは残せないと考えたはず。だからこそ、かつてレースで名を馳せたフレームビルダーや、誰もがその名を知るデザインスタジオではなく、極めて嗜好性が強い〝カスタム〟の世界で、しかも本国ドイツから遠く離れたアメリカの、新進気鋭のカスタムビルダーである「RSD」に白羽の矢が立ったのではないだろうか。
そう考えるとBMWの判断は実に正しかった。パーツを削り出すだけじゃなく、自らスケッチを描き、アルミを叩き、磨くというオールドスクールなカスタムスタイルも、速く走るための最新スペックパーツについても造詣が深く、かつ〝乗れる〟のはローランド・サンズしかいないからだ。
現時点で「CONCEPT90」は、世界中の注目を集めている。BMWはすでに強烈なカウンターは手に入れたことになるわけだ。後は、この秋に発表予定の新型車が、このバイクと同等以上のインパクトを持って登場できるかどうか、である。
文・河野正士