日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の年始ご挨拶の場が、大磯ロングビーチの大駐車場に輸入車が集まるJAIA輸入車試乗会だ。
日本自動車輸入組合、Japan Automobile Importers Association(以下JAIA)は、日本における輸入車の健全な市場環境を整備し、輸入車の普及促進を目的とする業界団体。モータージャーナリストを本業としない私にとって、まとめて試乗できる場があることは大変ありがたい。1日で最大5台まで、各車両90分の枠をもらい、撮影を含めた試乗を行う。今年、試乗リクエストを出していた車両は、BMWアルピナB3GT、DS3オペラ、ロータス・エレトレRとエメヤR、それにメルセデスのG580EQテクノロジーだ。
昨年5月にマイナーチェンジされたDS3ではあるが、フロント周りのフェイスリフトと車内のインフォシステム以外に大きな変更は見られなかった。当時奇抜と思われた独自のスタイルは、2018年に発表されてから7年以上が経つと、食傷されやすいプロダクトデザインであったかもしれない。車重に対してのエンジン出力が低く、小型車ならではの軽快な動きも期待できなかった。しかし、スポーツカーやラグジュアリーカーとは違う方向で、雑然とした生活感から離れさせてくれるDSのデザインは、やはり目が離せない。
アルピナB3GTは、デイリードライブからロングドライブまでオールマイティなしなやかさで、アルピナ創業家最後の気概を足回りに感じた。残念に感じたのは、デジタルダッシュボードからタコメーターが消され、デザイン重視になりわかりづらくなったインパネと、15年前には絶滅したと思われたターボラグでアクセルに気を使う点だ。好みで言うならば、私はディーゼルエンジンのD3を選ぶだろう。
BEVになったGクラスは、メルセデスのEQシリーズの御家芸とも言えるガソリン車との違いが分かりにくい設計の車両だ。Gターンなど駆動を刷新する作り手の意図は受け止めたが、疑問も深まった。擬似エンジン音の効果もあって、トルクの出力バンドにもエンジン車のような演出がされている。こんなにもエンジンへ未練を残して、航続距離も短くエネルギー補充もしにくいBEVである必要が、私には見えてこないのだ。
最後は以前から気になっていた、新生ロータスのBEV車両2台だ。先行してデビューしたSUVのエレトレR、デビューしたばかりの4ドアクーペのエメヤR。中国の吉利汽車の資本力とEV技術を注いで投入されたこの2台は、コンフィギュレーションを最高グレードで選択すると3,000万円近くになる。ロータスでも吉利汽車でも、かつてこの価格帯の車両を製造販売したことがなく、この挑戦的な初手に期待が詰まっていた。果たしてイギリスのコーチビルダー、そして軽量スポーツカーの系譜は感じられるのだろうか。しかし2台のクルマに、かつてのロータスはいなかった。そこには真逆と言っていい、ハイパワーの高級SUVとクーペがいた。戸惑ったが、よく見ると内装のクオリティも価格相応で、他社との競争優位性を保つために1,000馬力の出力に決めたのだろう、と直感的に思えた。
エメヤはエレトレより160キロ軽量であり、クーペなので車高も低く、サスペンションストロークも短く設定されている。出力と車体とのバランスがよく、ステアリングさえ真っ直ぐ向いていれば、どの速度域からでも怖い思いをせずに、異次元の加速を体験できた。液晶パノラマルーフや独立バケット型のリアシートもスポーツクーペの雰囲気満載。タイカンターボSは簡単にやっつけてしまいそうな出来栄えに、新生ロータスのベクトルを見れた気がした。
ただエレトレとは、アクセルを床まで踏み込む信頼を築くことができなかった。それは高速道路の中間加速でフルスロットルにし、最大トルクが掛かった瞬間のことだった。4つのタイヤの構造は潰れ、脚それぞれが時間差で潰れては戻って、を繰り返したのだ。クルマはピッチ・ダイブを瞬間的に繰り返し、一瞬横を向くような素振りを見せ、それまでハイパワーを楽しんでいた私の顔から表情を消させた。エレトレのポジティブな性能と、車高の高さからくるサスペンションストロークの長さとのバランスは、細部まで合わせこめていなかった。瞬時にアクセルを戻したり、カウンターステアを当てられるドライバーだけが、フルスロットルの権利を持つクルマであると、心して向き合ってもらいたい。
5台中BEVが3台、内燃機関車は2台で、それぞれのメーカーで方向性が違っていた。メルセデスのG580EQはフィーリングを限りなくエンジンに振っていたが、ロータスはエンジンを全く感じさせない方向へ寄せていた。アルピナが昭和を感じるドッカンターボ搭載で存在感を強めたが、DSは激しく煽られる今の時代から、一歩引いているように感じた。この複雑さは、昨今の車業界が混沌としている証だろう。このような時だからこそ、細部に目が、手が、心が、行き届いたクルマが光って見えてくる。本年12月のカーオブザイヤー決定までに、その光る1台を探したい。
Hiroshi Hamaguchi