編集前記 Vol.25 スーパーカー少年の溜まり場

文・神尾 成

先日、たまたま実家の近くにある商店街の前をクルマで通りかかった。

 1階にスーパーや自転車屋があり、2階には飲食店や本屋が入る、十数店舗が軒を連ねた2階建ての小さな商店街だ。引っ越してきた小学生の頃には、既にこの建物は立っていたので、少なくとも50年以上前からこの場所に商店街は、あったと思われる。しかし建物の老朽化が進んだことや、近くに大型のスーパーやホームセンターができたせいか、現在は数店舗しか営業していない状態だ。

 以前この場所に来たのは20年以上前だった。その時は開いている店も多く、活気があったので何も感じることなく通り過ぎたが、今回は寂れた商店街の様子が気になってクルマを停めたのである。そして一緒にいた家内に商店街のことを説明しているうちに、この場所は今の自分につながる色々な思い出があることに気付いたのだ。

 思えばスーパーカーブームの頃は、2階の本屋に通い詰めて『ホリデーオート』や『ル・ボラン』を読みあさり、プラモデルコンテストでは、ランボルギーニ ミウラにリアウイングを付けた改造車を作ってショーケースに飾られたこともあった。また商店街のすぐ先にトヨタ2000GTが駐まっているのを発見して写真を撮っていたら、オーナーが現れて助手席に乗せてもらい、数百メートルだが走行したという忘れられない思い出がある。さらに高校生になって初めて原付バイクを買ったのは1階の自転車屋だったし、『月刊オートバイ』や『ボビーに首ったけ』と出会ったのも商店街の横にあとからできた本屋だった。

 今ではスーパーも自転車屋も2軒あった本屋も無くなってしまったが、商店街の建物が残っているうちに自分の原点とも言える場所に帰って来れたことは運が良かったと思う。これまでの人生の道のりを見つめ直すきっかけになったからだ。それなりの年齢になると知らないところへ観光にいくよりも、自分の過去を“振り返る”ことができる場所を訪れた方が、意欲が湧いてきて、むしろ“前向き”な気持ちになれるようだ。

神尾 成/Sei Kamio

2008年からaheadの、ほぼ全ての記事を企画している。2017年に編集長を退いたが、昨年より編集長に復帰。朝日新聞社のプレスライダー(IEC所属)、バイク用品店ライコランドの開発室主任、神戸ユニコーンのカスタムバイクの企画開発などに携わってきた二輪派。1964年生まれ60歳。

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