編集前記 Vol.23 還暦のバイク乗り

文・神尾 成

僕は昭和39年の11月生まれなので、この号が出る頃には還暦を迎えている。

 考えてみると16歳になった数ヵ月後に原付免許を取ったので、かれこれ44年もバイクに乗ってきたことになる。当初は自転車に代わる足として、発売されたばかりのホンダ タクトを購入したのだが、友人から CB50JX-1を借りたことがきっかけでバイクにハマっていくことになったのだ。

 いまさら説明するまでもないが、当時はバイクブームの全盛期で、免許を取ることやバイクを買うことは高校生にとって当たり前のことだった。しかし18歳になると皆クルマの免許を取り、大半は高校を卒業する前にバイクを降りていった。もちろん乗り続けるヤツも少なからずいたが、恋人ができたり、冬が来るたびに少しずつ仲間は減っていき、二十歳をこえてバイクに熱中しているのは少数派になっていたのだ。だが僕は二輪関係の仕事に就いたこともあり、その後も変わらずにバイクを乗り続けてきたのである。

 こうして振り返ると職業的な立場があったとはいえ、よく飽きずにやってこれたなと自分でも感心する。孫がいてもおかしくない年齢になった今も週に2、3度は、いつものコースを周回してメンテナンスに勤しんでいる。時間の融通が利く仕事だからできることだが、これもバイクを続けていくために自分が“作り出した環境”だ。しかしその反面、身体的に苦しめられ、何度も辛い事が起こり、時に惨めな気分にさせられることもあった。もしバイクに乗ってなかったら精神的な呪縛もなく、もっと自由に生きてこられたはずだと考えることもある。

 今月号の「Point of No Return」(p51) で、「そもそも、バイクに乗り続ける確固たる理由自体が、この世には存在していない」と、大鶴義丹は断言しているが、まさにその通りだと思う。しかしここまで来ると、これが自分の人生だと受け入れるしかない。あとどれくらい、この状態を維持していけるのかは分からないが、体力的に限界を感じたら最後は自分で自分に引導を渡せる強さを持ちたいと願っている。

神尾 成/Sei Kamio

2008年からaheadの、ほぼ全ての記事を企画している。2017年に編集長を退いたが、昨年より編集長に復帰。朝日新聞社のプレスライダー(IEC所属)、バイク用品店ライコランドの開発室主任、神戸ユニコーンのカスタムバイクの企画開発などに携わってきた二輪派。1964年生まれ59歳。

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