次世代ジャーナリストがいく 第3回 若者は本質的にクルマ好き。クルマ離れを引き起こさないために必要なことは?

文・西川昇吾

若者のクルマ離れ。この言葉はもう何年も前から、繰り返し飽きるほど言われてきた。

 しかし当の若者はこのことについてどう思っているのだろう。Z世代のモータージャーナリスト、西川昇吾さんに「若者のクルマ離れ」について書いてもらった。


 「若者のクルマ離れ」そんな言葉が聞こえるようになって何年が経っただろうか? 現在26歳の筆者は幼い頃からクルマが好きだが、この言葉は小中学生のころから聞いている気がする。

 しかし、実際に走行会や参加型の自動車イベントの取材に行くと、その先々で若者のパワーを感じる。だから、実は若者のクルマ離れは嘘なのではないかと筆者は思っている。

 昨年、トヨタが提供する新車のサブスクリプションサービス「KINTO」が18~25歳を対象にZ世代のクルマに対する意識調査を実施した(*)。それによると「若者のクルマ離れと聞いて自身のことだと感じるか?」という質問に対して、「感じる」(「とても感じる」「やや感じる」の合計)と答えたのは東京で57.2%、地方で34.2%。しかし、驚かされたのは「自動車を運転することが好きだと感じますか?」という質問に対しては東京で65.1%、地方で71.9%が「感じる」と回答していることだ。若者の過半数は運転が好きなのだ。また東京で45.5%、地方で60.9%が「自分名義のクルマが欲しい」と答えていることからも、若者は本質的にはクルマが好きだと言ってもよいのではないだろうか。

 親の影響も大きいだろう。KINTOの調査対象となった、Z世代と言われる2020年代の若者は親がバブルの恩恵を受けたという人も多い。かく言う筆者もその1人だ。「親がクルマ好きだから自然と自身も好きに…」といった例も多いし、クルマを趣味にすることへの理解も得られやすい様子だ。逆に取材を重ねて感じるのは30代半ば~40代半ばの層が少ないことだ。この世代は就職氷河期世代であり、クルマを所有するといった経済的余裕が無かったことも理由のひとつかもしれない。もちろん現代の若者だって親が過ごしたバブル時代と比べて決して裕福とは言えないが、就職市場は売り手市場で働き口や働き方の選択肢は多い。収入は多くないかもしれないが、収入が無くなる心配が少ないという点が氷河期世代とは大きく異なる。

 ただ、親が過ごしたバブル時代と比べてクルマに対する考え方や趣味趣向が変化しつつあるのは事実だ。バブル期はクーペを中心とした低いシルエットをデザインの特徴とするデートカーが流行した。しかし現在の流行の中心はSUVだ。以前別の記事を書くときに自動車メーカー数社に「若者の購入比率が高い車種を教えて欲しい」と質問をした。台数ではなく比率であるため、分母の小さなスポーツカーなども含まれていたが、特に印象的だったのがトヨタのRAV4だ。ガソリン車で5割弱、ハイブリッド車で4割弱の購入者が20~30代となっている。その一番の理由がデザインだ。RAV4を購入した中学の同級生に聞くと「登場した時にデザインに惚れて憧れのクルマとなった」や「武骨な感じが好き」という見た目に関する部分が多かった。また、知人のトヨタディーラーマンに聞いてみてもデザインが理由で購入する若者が多いとのことだ。

 若者のクルマ選びはいつの時代もデザインが重要であり、そして若者ウケするデザインというのは時代と共に変化しているのだ。もし、今若者ウケするクルマを本気で作るのであれば、初代bBのようにチーフデザイナーに若手を採用し、好きなデザインを思い切りやらせてみるのがいいのかもしれない。

 現在は若者のクルマ離れを感じていないが、就職氷河期世代の子供たちが免許を取得する時が来たらまた若者のクルマ離れが起きてしまうかもしれない。そしたら日本が世界に誇る自動車の技術と文化は存続し続けることができるだろうか? その疑問や不安を払拭するためには物価高を考慮した若者の実質手取り収入が安定して増えること、そして若者にウケるデザインのモデルが多くの自動車メーカーから登場することが必要だと筆者は考えている。せっかく再び巡ってきた若者のクルマへの興味を絶やさないことが、日本の自動車業界が存続していく上で必要なことの1つであるはずだ。

*令和5年版「Z世代のクルマに対する意識調査」(KINTO)
 https://corp.kinto-jp.com/news/press_20230317/

西川昇吾/Shogo Nishikawa

1997年生まれ、大学時代から自動車ライターとしての活動をスタート。現在はWEB・紙の各種媒体で様々なジャンルの記事を執筆している。愛車のマツダ・ロードスターで定期的にサーキット走行しつつ、昨年からは自身でモータースポーツにも参戦し、ドラテクの鍛錬も忘れない、目指すは「書けて、喋れて、走れるモータージャーナリスト」。

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