YU 二輪&四輪のニュージェネレーション

文・岡小百合 写真・カーくる/※渕本智信 撮影協力・カスタムハウススティンキー

VMキャブレターでクリップオンハンドルの1983年式SR500を自分好みにカスタマイズして、アルファロメオ916スパイダーを日常の足とする。

そう聞くとマニアックな男性をイメージするかもしれないがYUさんは90年代生まれの女性だ。彼女はベベル時代のドゥカティ900SSやロータス・エキシージを乗りこなし、自身のYouTubeチャンネルでSRのキック始動やヒールアンドトゥの動画を配信している。

彼女は、これまでの固定概念を超えた新たな時代の申し子なのかもしれない。

 富士山から吹きおろす清涼な風に、ポニーテールからこぼれ落ちた髪がゆるやかに揺れていた。顔にかかった一筋の髪をゆっくりと払いのけると、右手で日差しをさえぎりつつもあえて太陽の方を向き、彼女は大きな目を細めた。「いい季節ですね」。そう口にしながら、満面の笑みを浮かべた。今ここに在る。そのこと自体をしみじみと味わい、たっぷりと喜んでいるかのように。

 しなやかなひと。実際にYUさんに会い対峙してそう感じるのは、きっと筆者だけではないだろう。彼女にまつわる物事の一部を切り取って、面白おかしく言葉に置き換えるのは簡単だ。たとえば、キックスタートも厭わない女性バイク乗り。それも、いわゆる「ちょっと古い」SRを、老舗の専門店で自分好みにカスタムした猛者。あるいは、ひとつの動画の再生回数が55万回を記録したこともある、クルマ&バイク・カテゴリーの人気ユーチューバー。そして、元レースクイーンというカタガキに潜む、ステレオタイプなイメージ…。しかし、そうした事象は、あくまでも彼女が積み重ねた結果の一部であって、いずれの言葉も存在の本質には届かない。もどかしいほどに。

YU(ゆう) MotoCreator

YouTube、InstagramをはじめとするSNSを通じて“愛車のある暮らし”を提案、情報を発信中。愛車はSR500とアルファロメオ 916スパイダー。主な活動実績はSUPER GT LEXUS TEAM au TOM’S レースクイーン、YAMAHA レーシングレディ、チャンピオンガール、トライアンフレディ、カーくるアンバサダー 等。

※YUさんのYouTubeチャンネルは、こちらからご覧いただけます。

 そもそもYUさんがバイクに興味を持つようになったのは、育ってきた環境によるところが大きいと振り返る。実家があるのは、クルマ離れ、バイク離れといわれる今なお、マイカーやバイクが主たる交通手段であり、ツーリングの名所も点在する地域だ。だから自然と「いつかは自分もクルマやバイクに乗るもの」と感じていたと話す。それに加えて、「学生時代の反動」がさらに背中を押した。

 「大学時代までは短距離走の選手として、陸上競技に取り組んでいました。どうしたらもっと速く走れるのだろう。それだけを考えて過ごしていた、と言っても過言ではありません」

 だから、動力に頼って移動できるクルマやバイクに惹かれたのかな、と付け足した。

 「陸上競技のトレーニングは本当にキツいんです。でも時折、とても速く走れているのにキツさを感じない瞬間があって。その時のスピード感や風の感触の、言葉にはできないような心地よさは、バイクで走っている時に感じる清々しさに、通じるところがあるように思います」

 美しいものに関心が強い。SRにたどり着いた理由の一端をそう自己評価するが、それはバイクを離れたところにも息づく彼女の在り様にも思える。透き通った瞳をくるくると動かしながら、丁寧に誠実に選ばれた言葉で紡がれる清らかな日本語が、耳に心地よく響く。

 「SRのカタチに憧れていたんです。基本設計がシンプルなこともあって、温かみを感じさせるところも魅力です。そして何よりも、たたずまいの美しさに惹かれています」

 SRを選ばせた、物事に対するそんな審美眼は、彼女に流れる血の中にも潜んでいたらしい。YUさんのお父様は陶芸家だ。美しさと使い勝手の良さを両立させる作風で知られているという。食材を乗せたり、花を生けたり、そうやって暮らしを共にすることで完成するシンプルさと温かさが、お父様の作品の魅力だとされている。そう聞けば、うら若きYUさんがSRに心惹かれたのも自然なことであり、必然であったように感じられる。

 ネットや知人からの情報をもとに学びつつ、予算を含めた条件にぴったりな1台をヤフオクで見つけたのは、7年ほど前のこと。オリジナルに少し手が加えられた’83年式だった。ちょっと古いバイクならではの扱いづらさも、陸上競技に励み続け「少し難しそうなことを乗り越えることが好き」なYUさんにとっては、魅力として映った。

 「走っている時の爽快感や疾走感はもちろん魅力ですが、カフェでゆっくりとお茶を飲みながら、窓越しに自分のバイクを眺めて『綺麗だな』と感じる時間もとても大切」と感じている彼女だから、オリジナルのカフェレーサーを目指してカスタムを始めたことも自然な流れだった。真紅のカラーリングだけでなく、MVアグスタ風のタンクやシングルシート、クラシカルな本物のスミスのメーターも、彼女がみずからの意志で考え、選び取った価値観だ。「見た目にこだわり過ぎて、乗りにくくするのは好きではないのですが、せっかくならとことん格好よくしたい」。そういう自分の気持ちと向き合いつつ、自分自身で編み出した答えなのだろう。

 もっと速く。もっと大きく。もっと刺激的に。成長や拡大が正しいとされる人間の欲望に抗うかのようにも思える。しかし、それを懐古主義と片付けてしまいたくないのは、「身の丈に合ったバイクが好き」という自分なりの軸が、彼女の中にきちんと自立しているからかもしれない。女性であること、若さ、モデル業にふさわしい見目麗しさ。そうした表層を突き破ったところに宿る芯のようなものが、長きにわたり、世代を超えて愛されつづけてきたSRの存在感と共鳴する。

 話の最後に聞いてみた。いつまで、このSRに乗っていると思いますか? 
「おばあちゃんになっても持っていると思います。その時には、乗っているのか眺めているのか、それはまだわかりませんが」

 そう語る彼女の傍らで、富士山から吹きおろす清涼な風に吹かれて、季節遅れの八重桜がはらりと揺れた。しなやかに。ゆるやかに。


カスタムハウススティンキー

SRカスタムの専門店として38年の歴史を持つ老舗。本誌2015年3月号の表紙を飾ったSRはスティンキーの作品。YUさんSRのタンクにはスティンキーのエンブレムがある。

〒412-0001 静岡県御殿場市水土野199-7 TEL 0550(88)3300
営業時間12:00~19:00(土日は10:00開店)木曜定休(祝日は営業)


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