なんでもグーグルで答えを導いてしまう昨今、「車趣味」と検索入力すると、候補に「やめる」とか「飽きた」などのワードが出てきてしまう。
生活に根付き、人も荷物も天候に関係なく自由に移動できるクルマは、趣味というより文化や社会に近いのではないだろうか。逆にバイクは元々生活とは切り離れているから趣味になるのか。
クルマやバイクが好きで”趣味にする”ということは何なのか、改めて考えてみる。
バイクは子どものオモチャなのである
バイクを好きになって45年ほどが経つ。父が乗っていたヤマハ・メイトのシートに座り、後ろから支えてもらいながらスロットルを開け閉めしたことが原体験だ。高校生になって免許を取り、そのメイトで数日旅に出た。丹後半島をぐるりとまわる、16歳なりの冒険。ひたすら寒くて暗くて心細かった記憶が残っている。
ひとりでバイクに乗り、ひとりで目的地を決め、ひとりで野宿する。寂しかったけれど、もの凄い勢いで大人に向かっている自分を感じた。それからはバイクのことがもっと好きになった。望めばいつでもどこまででも行ける自由を知ったからだ。自分のバイクを手に入れてからはなおさらで、地図を眺めているだけで幸せな気分に浸れた。
未体験なものへ飛び込み、そのひとつひとつに感激できるのは若さの特権だと思う。少々リスクがあっても、好奇心が勝る。子どもだとそれがもっと顕著に表れ、目に入ったものは、なんでもかんでも「やらせて」とせがむ。リスクの概念がそもそもなく、知らないことすべてに心がときめくからに違いない。無知であることと未知への興味はほぼイコールだ。
子どもが青年になり、成人し、やがて高齢の域に達すると、おおよそのことは予想できるようになる。そして、自身の行動に歯止めをかける。あるいは無関心になったり、警戒心が強くなって新しさを拒むようになるのが普通だ。そうそれが普通なのだ。若ければあらゆる事象が新鮮な一方、歳をとると内向きになる。ごく平均的な傾向だと思う。
それに照らし合わせると、ベテランライダーの多くが口にする「最近のバイクはつまらない」という言い回しは、自然な現象だと言える。青年期に触れたバイクはどれも鮮烈な印象を残し、ツーリング先の風景も雑誌の中で繰り広げられるレースのワンシーンもそうだろう。思い出話はいつも「昔は凄かった。熱かった」で始まり、「最近のバイクは誰でも乗れる。電子制御で走っている。だからつまらない」で終わる。常になにかと比較したがるのに、自分のテリトリーからは出ない。
バイクは星の数ほどある趣味のひとつだ。だから「もうバイク趣味はやめようかな」と口にする人には「別に構わないのでは」と言うより他ない。バイクを通して得られる可能性に期待が持てないと感じたのなら、まったく別のことに刺激を見つけた方が健全だし、健康的だ。突き放しているわけではなく、本当にそう思う。たかがバイクである。一生を捧げる必然性はない。
たとえ一貫してバイク好きであっても、つき合い方が刻々と移り変わるのも普通だ。レース三昧だった期間もあれば、ツーリングに凝った時期もあり、走る場所もオンロードばかりかと思えば、突然オフロードにはまったり。乗ることよりもカスタムが楽しかったり、乗らなくても映像や小説で充分満たされたりといろいろ。僕自身がそうだ。
いろいろなものに手を出し、そこで学ぶこともあれば時々がっかりし、そうやって今に至っている。筋なんか全然通っておらず、常にあっちこっちへ目移りをしている。こだわりなんか全然ないから飽きることもない。
長くバイク好きでいられたのはこだわらなかったからだ。こだわりがあるのは素敵なことだが、ともすればあまり考えなくて済む。そこに留まり、同じことを繰り返し、よそ見をせず、型にはまっている状態と言ってもいい。ルーティンをこなしているのにも似ていて、刺激がなくなっても不思議ではない。
なんでもいいと思う。カワサキの空冷ビッグバイクだけが本物だと信じているなら、小さなスポーツバイクの世界を覗いてみる。ハーレーなんて、と思っていたとしても一度くらいレンタルしてみる。その程度の変化で、まったく違った価値感に触れることができる。
バイクは世間一般からすれば、子どもっぽいおもちゃだ。だからこそ、子どもみたいに飽きたら次へ、また飽きたら他へと興味のおもむくまま目移りしていけばいい。好奇心に蓋をせず、それに任せていれば楽しさは永遠に終わらない。
「バイク趣味をやめたい」ではなく、「バイク趣味を続けたい」と相談されれば、それがささやかなアドバイスだ。僕が今、猛烈に興味があるのはトライアルバイクだ。一度も乗ったことはないがスタンディングしている様を想像するだけでわくわくする。時速0㎞ですら、きっと面白い。
「クルマの趣味をやめたい続けたい!」の続きは本誌で
対談:岡崎五朗VS 神谷朋公 まとめ:まるも亜希子
バイクは子どものオモチャなのである 伊丹孝裕
今の時代にクルマは趣味になりえるのか 小沢コージ