技術屋集団 三菱自動車 VOL.6 1990年代後編

文・世良耕太

ランサーセディア (2000年-2009年)

ミラージュセダンと統合されて、ランエボⅦのベースとなるランサーセディアが2000年に発売された。ランエボのベースとなっているだけあり、共通のデザインやパーツが存在する。ランエボに似ているけどセディアって何? みたいな質問がWEB界隈で話題になったりもした。当時のTVCMでは、欧州の街並みの中をドリフトしながら快走するシーンがあり時代を感じる一幕だ。

 1996年8月、三菱自動車は「技術の三菱」を象徴するような画期的な技術を実用化した。

 GDI(ガソリン・ダイレクト・インジェクション)と名づけた直噴ガソリンエンジンである。モデルチェンジして8代目に移行したギャランと、そのステーションワゴン版のレグナムが搭載した。当時、燃料は吸気ポート内で噴射するポート噴射が主流だったが、GDIは燃料を噴射するインジェクターをシリンダー内に配置し、燃焼室に直接噴射するのが特徴である。

 筒内直接噴射、略して直噴のポート噴射に対するメリットは、制御性が高いこと。ポート噴射の場合はインジェクターから燃焼室までの距離があるし、到達まで時間もかかり、燃料がポートに付着するのを避けることができない。そのため、ある程度見込みで制御せざるを得なかった。一方、直噴は噴射時期や噴射量を自由度高く制御することができた。また、筒内で霧吹きのように燃料を噴射することによる気化潜熱によって混合気の温度を下げる効果があるため、ノッキング限界を高め、圧縮比を高める効果も期待できた。

 量産車用ガソリンエンジンに直噴を初めて適用したのは、’54年のメルセデス・ベンツ300SLだ。この高級スポーツカーは初採用だった機械式燃料噴射装置と合わせ、出力向上を狙っていた。

 三菱のGDIが画期的だったのは、低負荷の実用走行領域では成層リーン燃焼を実現して低燃費を実現し、全開運転を含む高負荷領域では均質な混合気による燃焼に切り換えて高出力運転を実現したことだ。「成層」とは、点火プラグ付近にリッチな(濃い)混合気の層を作ることを指す。燃費を向上させるため全体をリーンな(薄い)混合気にすると、着火しにくくなる。そこで、点火プラグのまわりにだけ濃い層を作ってやるのだ。三菱のGDIは吸気ポートを直立させたのに加え、ピストン冠面をお椀型にくぼませた形状にして噴霧をコントロールし、混合気の層状化に成功した。

 ポート噴射だった従来エンジンの圧縮比は10・5だったが、ギャラン/レグナムが搭載した1.8ℓ直4自然吸気のGDIエンジンは、圧縮比12を実現。ほぼ全域で10%のトルクと出力の向上を果たし、10・15モード走行では35%の大幅な燃費向上を果たした。

 ガソリン直噴は現在では当たり前の技術となっている。マツダのスカイアクティブXやスバル・レヴォーグのエンジンのように、リーン燃焼は燃費向上技術として再び脚光を浴びている。GDIは時代を先取りしたエンジンだったが、先取りしすぎたようで、厳しくなったNOx規制への対応が難しくなったことなどから姿を消した。しかし、「直噴」技術はエクリプスクロスが搭載する最新の1.5ℓ直4ターボに受け継がれている。

ディグニティ(2000年-2001年)

デボネアの後継モデルとして登場したプラウディアの兄弟車。トヨタ・センチュリー、日産・プレジデントと競合するリムジン仕様の4ドアセダンだったが、搭載された280馬力V8 4.5ℓGDIエンジンは横置きにレイアウトされ前輪駆動だった。発売当時、秋篠宮家の公用車として宮内庁に納入され、2020年末の時点で現役の模様。生産台数は僅か59台。とても貴重な一台である。

 三菱は’99年12月20日に発表した高級パーソナルセダンのプラウディアと本格リムジンのディグニティに、新開発の運転技術「ドライバーサポートシステム」を設定した。この運転支援システムは、’95年に世界で初めて実用化した「プレビューディスタンスコントロール」(アダプティブクルーズコントロール:ACC)と新開発の「レーン逸脱警報システム」、同じく新開発の「後側方モニター」の3つの技術で構成されていた。

 レーン逸脱警報システムは、ルームミラーに取り付けた前方カメラで道路の白線を認識し、レーンを逸脱するとシステムが判断した場合は警報音とメッセージ表示、ハンドル振動によってドライバーに適切なハンドル修正を促す。現在の車線逸脱警報システム(LDW)に近い機能だ。

 後側方モニターは車体後部に取り付けたカメラで後側方の接近車を認識し、ウインカーを操作した際、接近車が危険領域にあると判断した場合にブザー音とメッセージ表示でドライバーに注意喚起する。現在の後側方車両検知警報システムと同様のシステムだ。

 3つの安全技術がそろったことで、クルマの前と横、後ろにシステムの目が届くことになった。当時の「技術の粋」であり、三菱が予防安全性能の向上に積極的に取り組んできた成果だった。

ランサーセディアワゴン (2000年-2007年)

セディアのワゴンモデル。ラリーアートエディションもラインアップ。RECARO製シートやエアロパーツを装着して、足回りまでチューニングされた快速ワゴンとして名を馳せた。

三菱自動車8A8型エンジン

1999年から製造された4.5ℓのV8エンジン。三菱の乗用車エンジンとして最大排気量を誇る。アルミ合金製のシリンダーにDOHCヘッドと直噴技術GDIを組み合わせた。

三菱ドライバーサポートシステム(1999年)

運転者の負担を軽減させるための世界初の運転支援システム。レーン逸脱警報、後側方モニター、プレビューディスタンスコントロール(前号参照)の3つのシステムで構成される。

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