FTO (1994年-2000年)
三菱自動車が1992年に発売した新型ギャランは、世界初の機能を持ったINVECS(インベックス:インテリジェント&イノベーティブ・ビークル・エレクトロニック・コントロール・システム)を搭載していた。
INVECSは走行性能や快適性、安全性を高めるコンポーネントの総称で、新開発の「ファジィシフト4AT」と「ファジィTCL(トラクションコントロール)」、「電子制御フルタイム4WD」、「アクティブ4WS(後輪操舵)」、「アクティブプレビューECS(電子制御サスペンション)」、「エアピュリファイヤファジィエアコン」の6つで構成されていた。当時の三菱自動車の技術を総結集したシステムである。
「ファジィ」を目にして懐かしさを覚える読者もいることだろう。当時、洗濯機やエアコンなどの家電製品でファジィ制御が流行った。オンかオフのような二者択一の制御ではなく、人間の感覚に寄り添った「あいまい」な制御を取り入れたのが特徴だ。現代的に表現すればインテリジェントになるだろうか。従来のATは車速とアクセル開度の情報から機械的に変速段を選択していた。ファジィシフト4ATは道路の勾配や曲がり具合、ドライバーのブレーキ操作などの情報を制御因子に加えることで、上り坂のコーナーでは余計なシフトアップを防止して軽快に走り、下り坂ではシフトダウンしてエンジンブレーキを効かせ、曲がりくねった道では早めにシフトダウンするなど緻密に制御した。
’94年に発売した2ドアクーペのFTOでは、INVECSをAT専用の制御名にすると同時にINVECS-Ⅱに進化させた。学習制御の採用が技術上のハイライトである。INVECS-Ⅱには最適な変速制御があらかじめインプットされていたが、これをベースに学習制御を利用することで、ドライバーの好みや習性に合うようなシフトタイミングに切り換えた。
INVECS-Ⅱはスポーツモード用のマニュアルゲートを採用したのも特徴だった。P・R・N・Dのメインゲートの左横に「+」と「-」を記したサブゲートがあり、Dからサブゲートにレバーを倒して奥に押せばシフトアップ、手前に引けばシフトダウンする。ドライバーの意思に合わせて変速できるし、クラッチを操作する必要がないのでイージー。しかも変速時間が短いため、ダイナミックでスポーティな走りを可能にした。現在では当たり前の機能だが、ひと足早く採用したのはFTOであり、三菱だったのである。
INVECS-Ⅱ(1994年FTOから採用)
ディアマンテ(1995年-2005年)
’95年に2代目に移行したアッパーミドルクラスセダンのディアマンテは、量産FF車世界初の5速ATの採用も話題だったが、安全装備面の先進ぶりも際立っていた。四半世紀前の時点で、現在でいうアダプティブクルーズコントロール(ACC)をオプションで搭載していたのだ。
当時はプレビューディスタンスコントロール(PDC)と呼んでいた。カメラで走行レーンを認識し、レーザーレーダーで先行車を認識する仕組みは、現在の一般的なACCと同じである。PDCは相対速度が小さい先行車に接近したときは、先行車との相対速度に応じてエンジンとATを制御し、車間距離を維持。相対速度が大きいときはエンジンとATを制御しつつ、警報を発してドライバーにブレーキ操作を促した(40~100km/hで作動)。
90年代の三菱自動車は、時代を先取りした技術を次々に実用化していたことがわかる。
アダプティブクルーズコントロールの祖先