名車はかくして創られる 継承と革命の融合

文・河野正士 写真・安井宏充
写真・神谷朋公(HONDA e)/安井宏充(BMW R18)

前衛的な技術で造られたパイオニアであっても、レーシングシーンにおいて偉大な記録を遺したクルマだったとしても、それだけでは名車と呼ばれることはない。

ましてマーケティング戦略で作られたブランディングから名車は生まれて来ない。

クルマの価値や評価は発売された時代やその背景によって変わってくるものであり、常に移ろいでいくからだ。

名車と言われるクルマの多くは、どれだけ人に感動や影響を与えてきたのかで決まっていくように思う。

継承と革命の融合

文・河野正士 写真・安井宏充

 BMW Motorrad(以下BMW)の新型車「R18/アール・エイティーン」の国内デリバリーが始まった。この時代にあって空冷OHVの新型エンジンを新開発するだけでなく、BMWフラットツインエンジンのなかで過去最大となる1,802㏄という大排気量を有し、さらにはBMWにとって〝初めて〟となるクルーザーカテゴリーへの参入モデルとなる。BMWは「R18」をヘリテイジと謳い、歴史的モデルである「R5」の現代解釈としているが、しかしその中身はノスタルジックな気分に浸ることなく、BMWにとってチャレンジのカタマリとも言えるモデルなのである。

 なぜBMWがいま、「R18」をリリースしたのか。個人的な見解をまとめてみた。

 初めてのクルーザーモデルという先の注釈で、〝初めて〟を強調したのにはワケがある。なぜならばBMWは、過去に「R1200C」という、クルーザーモデルをリリースしていたから。厳密に言えば、それがBMWにとって初のクルーザーモデルだ。しかしこの車両は1993年に登場した「R1100RS」に採用された、当時の最高峰の空冷OHC4バルブフラットツイン/R259系エンジンをベースとし、フロントにはBMW独自のサスペンションシステム/テレレバーを使用していた。要するにBMWの方程式のなかで作り上げたクルーザーモデルだったのだ。しかし今回は〝クルーザーの方程式〟にしたがってディーテールが構築されている。だからあえて、「R18」を〝初めて〟のクルーザーと紹介したのである。そしてこの、BMWという大気圏から外に出て勝負することで、新世紀のBMWは成功を収めてきた。それが「S1000RR」であり「RnineT/アール・ナインティ」である。

 BMWがなぜ直列4気筒エンジンを抱くスーパースポーツマシンを作る必要があるのか。またカスタムバイクシーンで存在感をアピールする必要があるのか。最初は誰もがそれをいぶかしがり、拒絶した。にもかかわらず「S1000RR」は、先進的な機械技術に電子制御技術を組み合わせスーパースポーツカテゴリーに革命を起こし確固たる地位を築き、「RnineT」はBMWのブランドイメージを大きく変えた。なによりもこの2つモデルシリーズは好セールスを記録し、BMWという企業を経済面からも強く支えたのである。

 「R18」は、それら成功体験を活かし、コンセプトも車体も練りに練られて製作されている。ヴァンズ&ハインズにマスタングシート、ローランドサンズデザインといった米国におけるクルーザーセグメントのトップブランドが製作した多数の純正オプションパーツをデビューと同時に販売。エイプハンガーと呼ばれるグリップ位置の高いハンドルや、スタンダードとは直径や幅が異なるアルミ削り出しホイールといった、クルーザーシーンでは一般的でもBMWのシーンには存在しなかったパーツもラインアップした。そして、独自の理念と高い技術によってライディングギアブランドとタイマンを張れるほどの安全性を誇ってきたこれまでの純正アパレルとは異なるアプローチの、味わい深いアパレルやヘルメットを含むライディングギア群も、すでに揃っている。

 もちろん狙うは、世界中で大きなシェアを持つ、ハーレーダビッドソンの牙城。なかでも、その本丸であるアメリカ市場でのシェア獲得であることは容易に想像がつく。各二輪車メーカーが、アメリカ市場を強く意識したクルーザーモデルをラインアップすることでも、アメリカ市場の大きさ、そして重要さが見て取れる。BMWはその市場を徹底的に研究し、1,800㏄フラットツインなんていう、誰も真似できないエンジンで挑んできた。それが受け入れられるのか否か、大いに注目したい。

 もうひとつ、「R18」がBMWというブランドのなかで担うべきポジションがあると感じている。それはブランド創立100年を越えてなお、前に進み続けなければならない企業の節目としての存在だ。2023年、BMWは創立100周年を迎える。いま自動車やバイクが取り組むべき課題は多く、また巨大な企業として未来志向の成長戦略を提示し続けなければならない。そのために、ときには過去の自分を葬り去らなければならない。要するに、これまで以上にBMWらしくないアレやコレにも取り組み、目に見えるカタチで、直ちにその成果を上げなければならない。そんな夜凪の海のような世界で、BMWのあるべき姿で佇む灯台のような存在が「R18」なのではないか、と考える。最新の技術と戦略を用いて再構築した遺伝子。それを持つブランドは強い。そんな風に感じるのである。

BMW R18 First Edition

車両本体価格:2,976,500円~(税込)
エンジン:空油冷2気筒4ストロークボクサーエンジン
排気量:1,802cc
最高出力:91ps/4,750rpm
最大トルク:158Nm/3,000rpm

BMW R5 (1936)

R18のモチーフになったのは戦前モデルのR5。空冷OHV、カンチレバー式リアサス、フィッシュテール、ユニバーサルシャフトドライブ等が継承されている。

BMW R1200C (1997)

R1200Cは『007トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)で5分以上に渡り激しいカーチェイスを展開。ビルからビルへ飛び移るジャンプシーンは一見の価値あり。

BMW R nineT (2014)

お堅い印象の強かったBMWがイメージチェンジするきっかけとなったバイク。派生モデルのスクランブラーが『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』で大活躍。

BMW R nineT (2014)

『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』でのBMW R1200Cのアクションシーンが観れます。
TOMORROW NEVER DIES Bond vs helicopter

BMW R nineT (2014)

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』でのBMW R nineTスクランブラーが観れます。
Mission : Impossible – Fallout

特集「名車はかくして創られる」の続きは本誌で

名車はかくしてつくられる 嶋田智之

次期Zは、名車になりうるのか 小沢コージ

名車と迷車は紙一重 後藤 武

継承と革命の融合 河野正士

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加速するカーデザインの未来 今井優杏


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