技術屋集団 三菱自動車 VOL.2 EVを振り返る

文・世良耕太

MiEV Evolution Ⅲ 2014

三菱自動車は’12年から3年間、アメリカで開催されているパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムにEVで挑戦している。1年目のマシンは、箱根ターンパイクでテスト走行が行われた。写真は参戦3年目、電気自動車改造クラスで初優勝を手にした’14年型のMiEV EVOLUTION Ⅲ。

[SPEC]

全長×全幅:5,190×2,000(mm)
シャシ:スチール製パイプフレーム ボディー:CFRPカウル
サスペンション:ダブルウィッシュボーン(前後)
モーター:明電舎製 i-MiEV量産車用 改 フロント2基リア2基
バッテリー:LEJ製 i-MiEV量産車先行開発品 50kWh
出力:450kW(112.5kW×4)

 三菱自動車は2009年6月、世界初の量産電気自動車(EV)である『i-MiEV(アイ・ミーブ)』の生産を開始した。はじめは法人向けに販売し、’10年4月から個人向けの販売を始めた。EVのパイオニアだ。エンジンを始動するのではなく、システムを起動するのがEV。スイッチを入れても無音のまま。起動音とともに「READY」の文字がメーターに浮かび上がり、走る準備が整ったことをドライバーに知らせる。

 当然、タコメーターはなく、代わりにPowerメーターがある。アクセルペダルを踏み込むと、スッと針が振れてクルマが動き出す。反応の良さがモーターの特徴で、EV特有の静けさと反応の良さが多くのドライバーを魅了した。

 ’11年12月には、商用EVの『MINICABM-MiEV(ミニキャブ・ミーブ)』を発売した。EVは走行中に排ガスを出さないし、エンジン車のように騒音を撒き散らすこともない。アクセルを踏んだ瞬間に大きなトルクを発生するのが特徴で、荷物を積んだクルマをストレスなく走らせることができる。一充電あたりの走行距離が短いのがEV全般に共通するネックだが、業務内容によっては苦にならない。ガソリン車よりもエネルギーコストの面でメリットがあり、そのことがEV購入を後押しするケースもあるという。

 ’12年からは量産EVコンポーネントの可能性を探るため、3年計画でアメリカのパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムに参戦した。標高2,862m~4,301mに設定された約20㎞の山岳路を一気に駆け上がり、所要時間を競う。その過酷な競技に参戦することで、次世代の量産EV開発につながる知見を得た。

 「自分で発電する電気自動車」を標榜するアウトランダーPHEVが発売されたのは、’13年1月のことだった。PHEVの「PH」はプラグインハイブリッドを意味する。ハイブリッド車はエンジンとモーターの動力をそれぞれ単独で、あるいはミックスして走るのが一般的だ。エンジンを主体として走るのが通常で、エンジンが苦手とする領域で電気の力を借り、モーターで補う仕組みである。

 バッテリーの容量を増やしてモーターのみで走れる距離を延ばし、同時に外部電源を利用して充電できる機能を付加したのがPHEVだ。充電を行えば、バッテリーの容量分だけEVとして使うことができる。現行モデルのWLTCモードEV走行換算距離は57.6kmである。買い物や通勤など、近距離での利用ならEV走行だけでカバーすることが可能だ。

 バッテリー残量がなくなった後もエンジンではなくモーターに軸足を置いた。アウトランダーがPHVではなくPHEVと言われるゆえんだ。バッテリー残量が一定以下になると、エンジンが発電機を回す。そうして作り出した電気をモーターに供給して走る。エンジンの力とモーターの力をミックスするシーンもあるが、モーターの力だけで走る状況がほとんどだ。

 アウトランダーPHEVは、電気で走るだけのクルマではない。ランサー・エボリューションXで最初に適用した車両運動統合制御システムのS-AWCを搭載する。フロントとリヤにモーターを配置したツインモーターのため、理想の前後駆動力配分とすることができ、思いどおりに曲がるだけでなく、不整路面でのハンドル修正が少なくて済み、疲れにくい。

 ’17年の東京モーターショー(TMS)に出展したe-EVOLUTION CONCEPTは、フロントに1基、リヤに2基のモーターを搭載するトリプルモーター方式の4WDに進化。旋回性能の向上が期待できるシステムだ。’19年のTMSに出展したMI-TECH CONCEPTでは4モーター方式のコンセプトを提案している。’20年12月にエクリプス クロスにPHEVを追加するなど、三菱自動車はPHEVの展開に力を入れているように感じられる。そうなると、パッケージング面で合理的なトリプルモーター方式が当面の理想になるだろう。

 単にモーターで走るクルマを開発するのではなく、誰もが安心・安全に走れる性能を実現するツールとして活用しているのが、三菱自動車らしさだ。

エクリプス クロスPHEV 2020

’13年に登場したアウトランダーPHEVで培った技術をエクリプスクロス専用に最適化して搭載。’17年東京モーターショーで発表されたe-EVOLUTIONのエッセンスを用いたデザインはエレガント。2020年12月の発売予定だ。

i-MiEV(2020)

世界初の量産型電気自動車となるi-MiEVは2009年に発売。最高速度は130Km/h、航続距離が160kmの性能を持ち、家庭用コンセント及び、街の急速充電器からの急速充電も可能。

MINICAB-MiEV(2011)

軽商用バンのEVであるMINICAB-MiEVは、都会だけではなく、ガソリンが貴重な離島で重宝される。家庭で充電できるだけでなく、EVは軽自動車よりもトルクフルなため、荷物が満載でも急坂を登り切り、小回りも効く。

アウトランダーPHEV(2019)

100Vコンセントを2つ搭載し、1500Wまでの電力を出力することが可能なプラグインハイブリッドEV。大半の家庭用電化製品が使用できるので、’19年の台風被害で停電となった被災地に赴き支援給電をおこなった。

e-EVOLUTION CONCEPT(2017)

’17年東京モーターショーで披露されたSUVのコンセプトモデル。フロント1基、リア2基のモーターで構成する4WDシステムに、三菱自動車お得意のS-AWC(スーパーオールホイールコントロール)を組み合わせた。

MI-TECH CONCEPT(2019)

’19年の東京モーターショーで、小型軽量の新しいPHEVシステムを搭載した4モーター4WDのコンセプトカーとして出品。バギータイプのSUVで得意の4WDとEVの技術が凝縮したブランドメッセージを体現したモデル。

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