ランブレッタのアウトロー感

日本と欧州のスクーターは異なった方向に進化している。

 洋服を汚さずにスカートでも乗れるといったコンセプトから始まったことは同じだが、今や日本のスクーターは、機動性を重視したスポーティな方向に進み、欧州は、当時のままのスタイルを貫いている。お国柄や道路事情によって異なる進化を辿ってきた結果なのだと思うが、そのおかげか、日本のスクーターはちょっと前まではやんちゃな若者の乗り物、欧州ではスーツ姿でも通勤できる大人の乗り物、というイメージが出来上がってしまっている。でも、そんな欧州でも1960年代は、やんちゃな若者の乗り物だったというのは、みなさんもご存知の通り。その象徴とも言えるのが、イギリス生まれのカルチャーである〝モッズ〟。その対極にあった〝ロッカーズ〟とともに、ストリートファッションにも大きな足跡を残すことになったのだが、そのモッズに必要不可欠な乗り物が、イタリアン・スクーターだったのだ。

 イタリアン・スクーター＝ベスパと思われがちだが、ランブレッタの存在を忘れてはならない。モッズのバイブルとも言える映画『さらば青春の光』ー原題は『Quadrophenia（四重人格）』ーは、ザ・フーが1973年に描き下ろした、同タイトルのロックオペラが原作。1979年のイギリス映画なのだが、舞台は1960年代初期のロンドンとなっており、10代の悩める青年たちがミラーでデコレーションしたスクーターを足代わりに使っている様子が描かれている。映画の主人公ジミーの愛車はランブレッタ、モッズのカリスマ的存在あるエースの愛車がベスパで、登場するこのふたつが2大イタリアン・スクーターメーカーとなるのだが、モッズとなるとランブレッタのイメージのほうが強いのだ。映画だけじゃなく、当時のモッズの写真を見ると、ベスパよりもランブレッタの改造車の方が多く見受けられる。モッズと言ったら今でこそかっこいいイメージだが、当時はただの不良の集まり。セックス＆ドラッグ＆ロックンロールをそのままでなく、斜に構えて表現したマイノリティ集団だ。ビッグスクーターを爆音で乗り回している日本の若者とそう変わりない存在だったりする。同じイタリアン・スクーターといえど、ベスパは『さらば青春の光』ではカリスマ的存在であるエースの愛車であったり、映画『ローマの休日』に登場したりと、どちらかといえば華やかなイメージに描かれている。それに対して、ランブレッタは硬派なイメージが強い。人とは違った生き方を模索する、新しい時代に踏み出そうとする若者たちによく似合う。1946年から途絶えることなく脈々と生産を続けてきたベスパに比べ、ランブレッタは1947年に誕生し1971年にイタリアでの生産が終了することで、幻のスクーターとも呼ばれるレアな存在となってしまったことも、そんなイメージを強く抱かせる要因となっているのかも。

 『さらば青春の光』で、人と違うことをしたくてモッズになり「何者にもなれないなら海に飛び込んで溺れたほうがマシだ！」と言っていた主人公のジミーが、うまく行かない現実に嫌気がさし、憧れの存在であったエースの残念な姿までも目の当たりにしてしまい、エースのベスパを盗んで走り出す。そして、ラストシーンではそのままベスパと共に崖の上から海に飛び出す…という、なんとも甘酸っぱい青春のやるせなさが、モッズとスクーターの存在意義を、深く印象付けている。不器用でありながらも、それぞれの時代で悩み足掻いた青春の証。その個性を表現する手段として選ばれたランブレッタは、そんなカッコイイ不良のシンボルでもあるのだ。

さらば青春の光

ランブレッタ V125 special