スマートフォンやネットTVが普及し、誰もが気軽に動画で情報を得ることができる時代になった。そしてクルマやバイクを楽しむスタイルも多様化している。
TVや雑誌などは発信者からの一方通行だったが、今は観る側受ける側からも発信できインタラクティブ(双方向)に楽しめる。
しかし長い目で見れば動画やSNSは通過点だろう。今後、クルマやバイクといった趣味の世界と、動画やSNSとの繋がりがどう変化していくのか見極めておきたい。
SNSから見える日本人像
小学生に聞いた「将来なりたい職業」の上位にユーチューバーがランクインしたことがニュースになったのは2017年のことだ。ユーチューバーとは、インターネット動画共有サービス『ユーチューブ(YouTube)』上に独自制作した動画を公開し、そのときに表示される広告収入によって生計を立てている人のことだ。
2005年にアメリカで誕生し、同年5月に一般公開されたYouTubeは、翌年にはインターネットサービス最大手であるグーグルが買収し、ふんだんな資金によってさらに規模を拡大。今や76言語に対応し、市販テレビにもYouTubeが標準機能として備わるほど、事実上の世界標準フォーマットとなっている。
そう説明しても、動画配信に興味がない人にはまだユーチューバーが何かは分かりにくいだろう。もっと噛み砕くと、テレビではなく、インターネットを活動の場とするタレントである。
ユーチューバーの魅力は、才能がありさえすればスマートフォンひとつからスタートして世界的な有名人になれるし、海外のプロスポーツプレイヤーのように億単位の年収を稼げるタレントになれることだ。
これはもちろん世界中に数億人規模で存在するユーチューバーのトップクラスの話だ。しかしこのピラミッドの裾野は膨大で、インターネット動画は現代人の必須メディアといって過言でない。
YouTubeに代表される動画共有サービスの利用者は、通信回線速度の向上とスマートフォンの普及によって一気に拡大した。
当時の固定回線はケーブルテレビや光回線の普及でブロードバンド化されており、パソコンでは大容量の動画ファイルの利用も実用レベルに達していた。しかし携帯電話用の移動通信速度は第3世代とよばれる3Gで、動画ファイルをアップ/ダウンロードするにはまだ力不足だった。
転機となったのは第3.9世代ともいわれ、第4世代(4G)への橋掛かりともなったLTEの登場だ。これと同時にスマートフォンの普及が進んだことで、動画共有サービスが本領発揮できる環境が整った。こうして動画共有が一般化したのが、おおむね2010年頃のことである。今や動画を楽しむためのデバイスの主軸はパソコンからスマホになった。
つまり、YouTube誕生の2005年から2010年までのおよそ5年間が、動画共有サービス、ひいてはアマチュアによる動画制作・投稿の黎明期といえる。
日本では2006年にニコニコ動画が登場し、動画共有サービスの地盤を作った。ニコニコ動画が画期的なのは、視聴者が動画内の好みのタイミングにコメントを挿入できる点で、投稿者と視聴者がコミュニケーションできることに加え、これによって動画作品がよりおもしろくなることだ。
日本ではニコニコ動画発信のものがYouTubeへ流れるという形態が続き、政治も巻き込んだイベント『ニコニコ超会議』へと発展した。しかし登録制であったことに加えて2007年に月額課金制として視聴者を差別化したあたりから、YouTube発信の動画が増えていった。今や日本においてもYouTubeが動画配信メディアフォーマットになっている。
SNSによって若年層は長文を読めなくなっているという指摘もあるが、この傾向は動画も同様だ。最後まで視聴されるものはおおよそ10分前後といわれ、さらにTikTokのように15~60秒のショートタイム動画も主流になりつつある。
アマチュアが制作する動画のテーマで最重要といえるのが「共感」あるいは「共通の体験」であり、「大きな資本投下や技術の習得なく、今日や明日すぐにできること」である。これを端的に表しているのが料理レシピ動画で、2~3分程度に編集した調理の様子は実用的、かつスタイリッシュなものが人気を集めている。
バイク界隈では『モトブログ』という動画配信がネットメディアとして台頭している。ヘルメットにアクションカムをつけて走行シーンを録画し、実況を同時録音したものだ。人気のカテゴリーはツーリング、次いでキャンプで、ウエアやパーツなどのレビューもある。
しかしレース系モトブログはあまり人気がない。これは前述した「今日明日すぐにできること」の条件から外れることが要因のひとつと考えられるし、他人と競うことを是としない若年層の気質も要因だろう。かといってもちろん皆無ではなく、とくにエンデューロレース界隈ではアクションカムで撮影した動画は盛んに公開されている。
ただしバイク界隈ではユーチューバーとなって専業(プロ化)となる動きはほとんどない。あくまで趣味の延長であり、バイクをより幅広く楽しみ、仲間を増やすためのツールとして活用されているのが現状だ。
仲間を増やすという行為は、近頃は〝つながり〟という言葉で表現されることが多い。SNSはソーシャルネットワーキングサービスの略称で、言語の問題を考慮しなければ世界中の人々とつながれるツールだ。
しかしここでも「今日明日できること」と同様、手を伸ばすだけで届くところだけとつながる傾向がある。たとえばカワサキが好きならカワサキ好き同士と、さらにいえば車種限定のようなごく狭い範囲でのつながりを求めがちだし、やはり同世代で集まりやすい。文字どおりの「類は友を呼ぶ」なのだが、友が示す範囲が非常に狭い。
これにはいくつか理由がある。広くつながると意見の相違に起因するトラブルが起きやすく、ひいては炎上を招きやすい。海を越えてつながれることよりも、面倒な諍いを避けるほうが結局は効率がいい。
だからツイッターやフェイスブックでも『いいね』はクリックするが、リツイートやシェアはしない。内輪で盛り上がり、楽しめればいいのである。バイク雑誌編集部やプロライダー、車両や用品メーカーのアカウントが発信する有用な情報や考察よりも、女性モトブロガーのグチやただの挨拶につく『いいね』のほうが圧倒的に多い。
SNSの利用者数を見ると、世界的にはフェイスブック、インスタグラム、ツイッター、ラインの順に多い。しかし日本ではそれがきれいに逆転する。極東の島から海の向こうを見ようとも知ろうともする意志がなく、内輪でひっそりと楽しめていればそれでいい。これこそがSNSが映す日本人像だ、と思うのは早計、あるいは考えすぎだろうか。
ハスクバーナ ヴィットピレン250
エンジン:水冷4ストローク単気筒 DOHC4バルブ
総排気量:248.8cc
半乾燥重量:153kg
最大出力:31ps/9,000rpm
最大トルク:2.44kgm/6,750rpm
特集2「クルマと動画の親和性」の続きは本誌で
インタビュー 河口まなぶ /文・まるも亜希子
日本最大のクルマ系ユーチューバー
山下 剛 SNSから見える日本人像
岡崎五朗 動画の時代に書くことの意味