Tiger 900 GT Pro Rally ProTRIUMPH VS
KTM 1290super DUKE R
ポルトガル南部の町ポルティマオに、アウトドローモ・インターナショナル・アルガルヴェという国際サーキットがある。
コーナーというコーナーは上っているか、下っているかの、ほぼどちらかで構成され、空しか見えないと思った瞬間、次はフリーフォールのように落下。世界でも指折りのトリッキーなレイアウトを持つ。攻略するには相当の習熟と度胸を要し、1,000㏄超のパワフルなバイクならなおのこと。しかしながら、KTMは新型スポーツネイキッド「1290スーパーデュークR」の試乗会にそこを選んだ。
簡単でないことはKTMも理解しているからだろう。それゆえ、試乗会のタイムスケジュールは異例なほどの詰め込み型だった。午前中のわずか3時間の間に6本もの走行枠が設けられ、ピットインしても喉をうるおすか、うるおさないかの内に“Hey guys, a few minutes to the next session. Go go go go!”というゲキが飛ぶ。考えるな、感じろ。KTMの開発陣は、そう言いたかったようだ。もちろん試乗は午後も続いた。
それから数日後、今度は北アフリカの国モロッコに飛んだ。アスファルトで覆われたサーキットからは一転、そこには土と砂と岩の世界が果てしなく広がるオフロード天国が待っていた。
北大西洋を臨む港町エッサウィラで受け取ったのは、ブロックタイヤが装着されたトライアンフの新型アドベンチャー「タイガー900ラリープロ」だ。朝9時から延々走りっぱなしのメニューが足掛け3日間にもおよび、レジャーの要素はまったくない。タイヤが埋もれそうなところがあれば“Full gas.”、転落しそうなところがあれば“Watch out for the huge hole.”と注意だけは促してくれるものの、すべては乗り手次第。ちゃんと越えられるバイクに仕立ててあるから、信じて走ればよろしい。それがトライアンフ流のプレゼンテーションだった。
バイクは乗るものであり、本気で走らなくてはなにも分からない。そういう体験が染みついているのが彼らであり、机上の技術解説に割く時間はいつも驚くほど少ない。ましてマーケティングだのトレンドだのといった話題が挙がることはなく、「あのコーナーのギヤは3速、トラクションコントロールはレベル2でOK。ウィリーコントロールをカットしておけば、ちょうどフロントが浮いてくるあたりにカメラマンがいるはずだ」そんな超実戦的なレクチャーが優先される。
実際、皆ライダーとしての技術は驚くほど高い。プロジェクトリーダーを筆頭に、開発スタッフ自らがジャーナリストを引き連れて走ることも珍しくなく、バイクの扱いは一様に見事だ。仕事はもちろん、プライベートでもとにかくバイクバイクバイク。積み重ねた距離がスキルを磨き、良質なバイクを作るという、これ以上ない正攻法を彼らは守っている。
この10年の間、バイク業界の中でひとつのイノベーションが起きた。それがIMU(慣性測定装置)の搭載と、それにまつわる電子制御の進化だ。IMUとは車体の挙動を検知するセンサーで、コーナーでどれくらいバンクしているのか、ブレーキングでどれくらい前のめりになっているのか。そういった姿勢変化と、その瞬間の加速度を計測している。例えば車体のバンク角が55度だとしても、果たしてそれが安定した状態なのか、スリップダウンする可能性があるのかを判断。それを解析してブレーキやエンジン出力を制御し、可能な限り転倒を回避するためのデバイスだ。
KTMやトライアンフを筆頭に、ヨーロッパのメーカーはこの分野において国産勢の前を走ってきた。それができた理由は簡単だ。IMUそれ単体はあくまでもセンサーに過ぎず、正しく機能させるには膨大なテストを繰り返して確度の高いデータを取り込む必要があったからだ。
つまり彼らの日常でもある、ひたすら走るという愚直なスタイルが先進のエレクトロニクスに貢献。理屈やシミュレーターでは決して測れない、本物のデータがヨーロッパ勢を躍進させたのである。
それが電子デバイス全体の底上げに活きた。国産勢がスペックを留め、あるいは後退させることで安全性を担保しようとしたのに対し、ヨーロッパ勢はそれを引き上げながら手なずけることに成功。ライディングモードやコーナリングABSの精度を高め、結果的にライダーの寿命を延ばしてくれることになった。
ビーストの異名を持ち、180㎰ものパワーを持つ1290スーパーデュークRの従順さ、また226㎏もの車重がありながらもそれを感じさせず、ガレ場の極低速走行も難なくこなすタイガー900ラリープロの走破力に、その成果が見て取れる。
バイクの性能を引き上げる牽引力は、止まることなく走り続けること。そんな至極真っ当なことを、あらためて教えてくれた試乗会だった。そして、その熱量の中で送り出されるバイクは例外なく印象的である。
車両本体価格:2,179,000円(税込)
エンジン:水冷4ストロークV型2気筒 DOHC4バルブ
総排気量:1,301cc
車両乾燥重量:189kg
最高出力:180ps(132kW)/9,500rpm
最大トルク:140Nm(14.3kgm)/8,000rpm
劇的に変わったのは車体だ。フレームのメインパイプはよりシンプルな構造になり、路面に対して水平に近い角度で配置。軽量化と低重心化が進められ、コーナリング中の安定性に貢献している。また、新たに設けられたリヤサスペンションのリンクがそれをサポート。特にストリートにおける路面追従性と乗り心地が飛躍的に引き上げられた。
車両本体価格:1,860,000円(税込)
エンジン:水冷並列3気筒 DOHC12バルブ
総排気量:888cc
車両乾燥重量:201kg
最高出力:95.2ps(70kW)/8,750rpm
最大トルク:87Nm/7,250rpm
800㏄だった排気量が888㏄に拡大されただけでなく、クランクシャフトの刷新によって等間隔で「ドンドンドン」と爆発していたエンジンが「ドドン・ドン」という不等間隔に変化。この影響は大きく、不整地でもタイヤがしっかりグリップ。明確になったトラクションとトルクフルな出力特性、低重心になった車体のおかげで高い走破性を得た。