キャンピングカーが人気を博し、休みともなればキャンプ場は予約でいっぱい。世の中は空前のアウトドアブームである。
いま、クルマはSUVがマーケットの主流となり、バイクはスクランブラーに熱い視線が注がれている。
なぜオフロードのかおりがするものばかりがこんなにも人々の気持ちを惹きつけるのだろう。
アラフィフのバンバン
バンバンを買った。
恰好のネタのつもりでそう切り出しても大抵キョトンとされ、「なんで?」といぶかられる。
正式名称はバンバン200という。70年代にブームになったスズキのレジャーバイクをモチーフにしたリバイバルモデルで、’02年に発売された。ネオクラシックブームにもゆるキャラブームにも早過ぎたのか、セールスはほどほどといったところ。厳しさを増す排ガス規制を前にラインアップから外れ、セロー250やSR400、W800あたりとは違って復活の噂も聞こえてこない。
そんなバンバンの最終モデルは’16年型(生産は’17年夏まで続いた)なので、探せばまだ未登録の個体が残っている。少なくとも現時点ではプレミアが付くようなモデルではなく、かなり値引きされた店頭在庫車を手に入れることができたのだ。
もっとも、単にお買い得だったことが「なんで?」に対する答えではない。近頃膨らみつつあった「バイクはもっと気ままでいいんじゃないか」という思いに一番ふさわしいと感じたからだ。
バイクとの関わり方は、長らく競技ありきだった。数年前、ロードレースにひと区切りつけてからもそれは変わらず、新しい趣味として2ストロークのオフロードバイクを手に入れるとエンデューロレースにハマった。サーキットとはまるで勝手が違い、最初はコースを1ラップすることもままならなかったものの、それゆえ新鮮だった。
数えきれないほど転びながらもその経験値が増え、断崖絶壁に思えたレイアウトもなんとか越えられるようになると、今度はスピードやリザルトよりもコースから外れるとなにがあるのか知りたい、その先がどうなっているのか見てみたい、と思うようになった。
16歳の夏、父親が乗っていたヤマハのビジネスバイクを借りて、川の土手と河原を縫うように走りながら延々と海を目指したことがある。それから時代がふた回り半ほどし、バイクとの接し方があの頃へと戻りつつあるのだと思う。
バンバンは、そういう今のスタンスにぴたりときた。たとえば山へ分け入るような場面でもその車体サイズは持て余さずに済み、サスペンションはシンプルながらストロークは十分。770㎜のシート高は難なく足が着くため、2輪+2足でジタバタすれば抜群の走破性を発揮してくれる。おまけに車重は128㎏と軽く、路面のコンディションが悪くても緊張感はほとんどない。
速く走ろうとか、飛んだり跳ねたりを求めなければ不足も不満もなく、走らせることができる。トコトコと丘を登り、ズルズルと斜面を降りるささやかな冒険。そんな使い方にバンバンは完璧に応えてくれるのだ。
もうひとつ、バンバンはその攻撃性のカケラもないたたずまいがいい。ケバケバしくもケタタマしくもなく、狭い路地裏や静かな田舎道を走っていても顔をしかめられたりしない。もしかすると山中の鹿や熊、鳥も驚かせないで済むかもしれない。まるでナンのようなカタチをした広く、ふくよかなシートにまたがっていると、いつもよりずっと穏やかな気持ちでいられるのだ。
今、所謂アウトドアを楽しもうとすると、多くの場合は人工的に作られた自然らしきどこかへ行き、管理された時間の中で過ごすことになる。ひと時の過ごし方としてはそれも悪くないが、バイクなんて乗って走り出すだけでアウトドアも同然だ。
だからスロットルを開けることがためらわれるようなパワーは要らない。勝手に先回りし、もてなしてくれるような電子デバイスも要らない。チタンやカーボンが使われていなくて全然構わない。アレもコレもソレもと望み、備え始めると、それはアウトドアというよりもサバイバルや武装の領域になってしまう。
バンバンは奇をてらったキャラモノに見えながら、実はどんな用途にも使えるスタンダードバイクだ。なんの気負いもなく乗れるごく普通のバイクだからこそ、望む方向へいつでもタイヤを向けて走り出し、どこへでも行ける。
バイクが1台、自分がひとり。あとは全部置き去り。16歳の頃に感じた、翼を手に入れたようなあの感覚を思い出させてくれるのだ。
ジムニー
総排気量:658cc
最高出力:47kW(64ps)/6,000rpm
最大トルク:96Nm(9.8kgm)/3,500rpm
*写真はジムニープロショップ「APIO」のデモカー(試作品)です。
www.apio.jp
スズキ バンバン200(生産終了)
総排気量:199cc
エンジン:空冷・4サイクル・単気筒 / SOHC・2バルブ
車両重量:128kg 最高出力:12kW(16PS)/ 8,000rpm
最大トルク:15Nm〈1.5kgm〉/ 6,500rpm
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ジムニー歴史館をつくった男 山下 剛
アラフィフのバンバン 伊丹孝裕
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