ベテランライダーに聞くいい大人のバイクの楽しみ方 神尾 成vs山田弘樹

写真・長谷川徹

ハスクバーナ・モーターサイクルズ
スヴァルトピレン 701

車両本体価格:1,355,000円(税込)
エンジン:水冷4ストロークSOHC 4バルブ 単気筒
総排気量:692.7cc
車両重量(燃料除く):158.5kg
最高出力:55kW(75ps)/8,500rpm
最大トルク:72Nm/6,750rpm

「行くところがない」が多くのライダーの悩み

山田 僕は若い頃にバイクに乗っていたこともあるんですが、40歳を過ぎて大型免許を取り、ハーレーのXR1200を買いました。典型的なリターンライダーですよね。

神尾 なんでまたバイクに乗ろうと思ったの?

山田 ちょうどその頃、毎日の生活にすごく閉塞感を感じていて、風穴を開けたかったんでしょうね。

神尾 バイクは〝自由〟なイメージがあるからね。

山田 でも買ってみてすぐに思ったのは「行くとこねぇ」ってことでした(笑)。ほんと、どこ行きゃいいんだろう……って、バイクを前にぽかんとするみたいな。道玄坂までふらっと行って、タバコ1本吸って、写メ撮って、「俺何やってるんだろう」って。

神尾 そうなんだよ。みんな「行くところがない」って悩むんだ。

山田 四輪はほんとに一生懸命やって来たので、クルマなら自分の理想がきちんとある。人にあれこれ言えるくらいの経験もあるんですけど、これが二輪だとまったく勝手が違ってびっくりしました。そこからもう一歩踏み込んで、行く場所や目的を見つけられたら良かったんですけど、ゼロからそれをやるのはハードルが高いというか。友だちとか先輩とか、バイク乗りの知り合いでもいれば、また違ったんでしょうけど。

神尾 自分たちのような仕事をしていれば話は別だけど、そもそも普通の人は、そんなにバイクに乗る時間は持てないよ。休みが月に4回あったとして、1日は家族サービス、もう1日は雨だったりすると、せいぜい月に2回乗れるかどうか。だから発想を変えた方がいい。

山田 発想を変える?

神尾 極端に言うと、バイクは無理をしてまで乗らなくて良い。

山田 ほぅ。

自分流カスタムで所有する喜びを

神尾 そうは言っても、自分のバイクを所有しているのだから、少しでも時間を見つけて乗るべきという価値感が当たり前。だからどうしてもその価値に支配されてストレスになるわけ。同じように悩んでいる人も多くいると思う。

山田 乗らなくても、持ってるだけで構わないということですか?

神尾 そう。いま、カフェレーサーやネオクラシックが世界的にブームになってるけど、そこにヒントがあると思う。

山田 カフェレーサーというと〝ロッカーズ〟ですね。公道レース用に改造した自分のバイクでカフェに乗り付けるという…。イギリスの階級社会が生み出したカウンタカルチャーのひとつですよね。

神尾 特にクラシック系のカフェレーサーはバイクの本質とも言える〝アウトロー感〟があるから、所有しているだけでバイクを味わえる。

山田 ハーレーとはまた違った個性というか格好良さがありますね。

神尾 昨年の秋にニューヨークに行って驚いたんだけど、マンハッタンを走っているバイクの半数以上がトライアンフのクラシックスタイルという印象だった。残りがモトグッチとハーレー、それにインディアンが混じっているといった感じ。つや消しの黒いヘルメットを被って、コートを羽織ったり、バイク用じゃない革の上着を来たりして、皆大人っぽく乗ってた。多分、そういう人たちのほとんどが半径15km以内でしか乗ってないんじゃないかなと思う。それでバイクライフが成立していることに新しさを感じたんだ。

山田 僕のような素人から見ても、トライアンフはバイクとファッションがうまく両立している感じがします。

神尾 別にオシャレになろうよって言ってる訳じゃない。ツーリングやサーキットには行かないけどバイクが好きという人たちに、もう少し楽な気分でバイクと付き合えばイイと言いたいだけ。それと話は変わるけどバイクはどう自分流にするかという楽しみ方もあって、トライアンフのストリートツインは買った人の8割が何らか手を加えているというデータがある。純正のミラーはユーザーがカスタムすることを前提にコストダウンが図られるらしい。

山田 バイクって性能と関係ないところで楽しめるんだって驚きますね。クルマでは「カッコだけで改造するとダサい」っていう感覚がずっとあったから。

神尾 自分も長い間そう思ってたよ。意味のない改造はやってはいけない、カッコ悪いと。いつも改造するには何らかの理由を探していたんだけど、あるとき、理由付けしていることが正にカッコ悪いということに気付いたんだ。

山田 バイクは改造できることが面白いんですね。

神尾 そう。カスタムなんて自己満足で良いんだから。

山田 僕はかっこいいのが付いてたら「かっこいい」というのは分かるんだけど、そうじゃないときに「かっこ悪いじゃん」と言い切れない。自信がないから。

神尾 確かにカスタムには多少の知識が必要。だけど今ならインターネットで色々なカスタム車を見ることができるし、調べることも出来る。ウィンカーを小型化するだけでも、大きく印象を変えるし、愛着が増してくるよ。

山田 そう考えると出来合いのもので満足するのはもったいないかもしれないですね。

神尾 今はパーツ量販店でカスタム部品を購入すればその場で装着してくれる時代だし、車両を購入したディーラーで相談するのも良い。そのままでは面白くなくなるというか、飽きてしまうので、失敗を恐れずに遠回りしてでも少しずつ自分流にしていくことはオススメ。

ネオカフェのススメ

山田 ベースのバイクはやっぱりクラシックスタイルがいいんでしょうか?

神尾 ただクラシックスタイルのバイクは重たいものが多いので、億劫になって出かける回数が減る傾向にある。軽くて、やっぱり進化しているものがイイという人にはネオカフェという選択肢もある。

山田 そうなると僕は断然ハスクバーナのヴィットピレン401が好きです。このバイクを初めてみたとき、アキラの世界を見ているような、すごくシンプルで、ちょっと野蛮で、未来的な感じがした。少し前にファッションの世界で「ノームコア」というのが流行ったらしいんですが、そのイメージです。日本では「究極の普通」なんてソフトに訳されてるけど、「オレはこれだけでいいんだよ!」っていう激しい気持ちが、なんでも便利なものをどんどん付けて行く〝今〟に反抗している気がして。401の、排気量の少なさも含めて何もかも要らないものを削ぎ落としてる姿勢には、未来を向いている感じがしてカッコいい! って思いましたね。

神尾 カタチを見てその奥にあるものを感じることができる年齢だからね。〝乗らなくて良い〟というのは、眺めたり考えたりしている時間が趣味になるという意味なんだ。

山田 たとえ乗らなくてもバイクを眺めながら、ああでもないこうでもないと想像を巡らせたり、調べたりしているうちに、発見があったり、知識が広がったりするんですね。バイクに限らず趣味って、そういうものかもしれません。

神尾 それともうひとつ大事なのはどれだけお気に入りの場所やコースを持てるかということ。好きなコースや、それこそ一杯のコーヒーを飲みに行く場所を見つけることが乗る理由になる。バイクはクルマと違ってある程度は時間が読めるから、1~2時間という短い時間でも楽しめるはず。

山田 1~2時間という短い時間でもいいんだ、と言われると勇気が出るというか救われる気がします。

神尾 別に気取った場所に行くことはない。自分のバイクが映えると思うところに行って写真を撮ったり、コンビニコーヒーを飲んで帰ってくるだけでもイイ。それを繰り返しながら、あとはそのパターンに少しずつ変化をつけていけるかだよ。

山田 もう少しだったのか~(笑)。バイクを買ったらどこか行かなきゃいけないというプレッシャーが、一番いけないんですね。

神尾 今の時代は、バイクを所有するだけで経済的にも大きな負担。置く場所を探すだけでも大変だし、クルマのようにディーラーが近くにあるわけじゃない。それに若い人たちに混じってショップのイベントに参加するのも勇気がいる。だからイイ大人はいかに脳内でバイクを楽しむかが大切なんだと思う。

トライアンフ ストリートツイン

車両本体価格:1,050,600円(税込)
エンジン:水冷DOHC並列2気筒 270°クランク
総排気量:900cc
車両重量:198kg
最高出力:47.8kW(65ps)/7,500rpm
最大トルク:80Nm/3,800rpm
*写真は旧型、数値は新型のものです。(写真・渕本智信)

ハスクバーナ・モーターサイクルズ
ヴィットピレン 401

車両本体価格:777,000円(税込)
エンジン:水冷DOHC 単気筒
総排気量:373cc
車両重量(燃料除く):148kg
最高出力:32kW(43ps)/9,000rpm
最大トルク:37Nm/7,000rpm

撮影協力:ARAI HELMET / HYOD PRODUCTS / JAPEX(GAERNE)

Sei Kamio

1964年生まれ。ahead前編集長。30年以上に渡りバイクに関わる仕事に従事してきた経歴を持つ。カタナのコンプリートバイクの企画開発を手がけるなどカスタムにも精通している。

Koki Yamada

1971年東京生まれ。自動車雑誌「Tipo」編集部在籍後フリーランスのモータージャーナリストとして独立。GTI CUPレースを皮切りにスーパー耐久等に出場し、その経験を生かして執筆活動を行うが、スタンスは常に“プロのクルマ好き”。日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。40歳を過ぎて大型バイクの免許を取得したリターンライダーである。

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