特集 時代を飛び越える力 バイクとスマホの親和性

文・山下 剛

 バイクに興味を持った、あるいは乗りはじめたきっかけを尋ねると、40~50代の返答は十人十色ではあるものの「男の子は16歳になったらバイクに乗るものだと思っていた」という言葉に集約される。

 この年代は、第二次バイクブームと少年期がおおよそ重なっている。だからバイクに興味を持ち、乗り出すことに疑問はない。時代の空気感ともいうべきものが彼らをバイクに向かわせた。裏返せば、なんとなくバイクに乗り出したのである。

 これは「バイクを卒業する」という概念が生まれた要因のひとつだ。なんとなく乗り出したのだから、簡単にやめる。バイクは16歳、クルマは18歳にならないと免許を取れないという法律による序列が基礎にあり、車両価格はバイクよりクルマが高いし、利便性も安全性も快適性もクルマが上という実情もある。ひらたくいうと「バイクは子供の乗り物」と思われていたのである。

 一方で10~30代、とくに20代前半までのバイク乗りに同じことを尋ねると、圧倒的に多いのが「父母の影響」である。そして彼らの多くが生活の足として実用的に使うよりも、休日や週末のツーリングを軸とする趣味を主眼として使っている。

 40~50代の大人たちの教育の甲斐あって、現代の若者たちは皮肉でも嫌味でもなく〝いい子〟が多い。交通ルールやマナーをしっかり守るし、規制以上のスピードを出したりすり抜けしたりして、クルマ以上に速く走ってこそバイクだ、という思い込みもない。見栄をはるための道具にもしていないから、排気量や車両価格のヒエラルキーも薄らぎつつある。

 先日、某バイク雑誌編集部に在籍する20代の男性と、昔はバイクを卒業するという概念が云々と話していたら、彼はキョトンとした顔をして「バイクとクルマは別物」と答えた。若いバイク乗りたちは、バイクはバイク、クルマはクルマと明確に分けて捉えている。

 三ない運動は撤廃されつつあるとはいえ、世間一般が持つバイクのイメージは今なお決していいものではない。危ない、うるさい、怖い。二輪車という構造ゆえのデメリットが注目され、かつてのバイクブーム時と違ってバイクはマイノリティだ。時代に感化されて順風に押されるごとくバイクに乗りはじめた中年世代よりも、バイクを取り囲む環境が悪化した現代において逆風に向かって乗り出した彼らのほうが確固としているのではないか。

 しかし、そうした若い世代をさして、バイクという乗り物自体への興味、あるいは運転技術を研鑽することへの訴求が希薄で、〝人とのつながりを求めるためのツール〟としてバイクを使っていると批判する人たちもいる。レンタルバイクの普及、整備を自分でやらずショップに依頼することもその一端だろう。つまり目的が軽薄だというのである。だが、この傾向は今にはじまったことではない。カミナリ族などを持ち出すでもなく、昔からバイク乗りは群れるものだし、趣味を共にする仲間を求めてきた。

 バイクと人間の関係性が軽薄になっているというのはたしかにそうだろう。だがそれはバイクに限ったことではなく、人と人、人と社会との関係性においても同様に変化しつつある。未婚化と少子化、家族との別居や介護の委託にはじまり、終身雇用の崩壊、就労とプライベートの分離、酒席マナーの変化や欠席など枚挙に暇がない。一部の社会学者は、そんな現代社会において大切なのは、かつての〝太く強いつながり〟ではなく、〝ゆるいつながり〟だと指摘する。依存も強制もなく、享楽を気軽に共有できる広く浅い関係性だ。シンプルにたとえると、バイクにだけどっぷりとハマるよりも、バイクもカメラもモトブログも旅も、そしてそれらがもたらすつながりも同時に楽しむ、というスタンスである。

 少子高齢化を主因として、バイク人口は減り続けている。今後は自動運転社会が拍車をかけるだろう。そうした今、私たちバイク乗りはその楽しさを共有し、ゆるくつながることで絶滅から逃れようとしている。スマートフォンはその抗いに欠かせない必需品だ。現代のバイク乗りたちがスマートフォンを使い、SNSを軸として、さまざまなバイクや人々とゆるくつながっていこうとする様は、厳しくなる環境で種が減りゆく速度を緩めようとする自衛本能に思えてならない。

RIDER:SEI KAMIO
撮影協力:ARAI HELMET / HYOD PRODUCTS / JAPEX(GAERNE)

写真・長谷川徹
フォルクスワーゲン Golf Alltrack TSI 4MOTION
車両本体価格:3,699,000円~(税込)
総排気量:1,798cc
最高出力:132kW(180ps)/4,500-6,200rpm
最大トルク:280Nm(28.6kgm)/1,350-4,500rpm

 いいと思えることも、そうでないこともあるが、そんなことは関係なく時代は進む。昭和から平成へ、平成から令和へ。時代を飛び越えていく力はどこにあるのだろう。いろいろな方向から考えみた。

特集 「時代を飛び越える力」の続きは本誌で

クラシックが日常になる日 吉田拓生

大衆車が消えた理由わけ 今尾直樹

平成生まれのクルマ馬鹿 片岡伶介

バイクとスマホの親和性 山下 剛


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