モタスポ見聞録 Vol.26 ホンダに元気を授ける

文・世良耕太

2015年にパワーユニットサプライヤーとしてF1に復帰したホンダは、’18年に供給先をマクラーレンからトロロッソに変えた。

 トロロッソはレッドブルの姉妹チームである。レッドブルは言わずと知れたエナジードリンクメーカーのチームで、’18年は4勝している。’18年第3戦までのトロロッソの成績を振り返っておくと、第2戦バーレーンでP・ガスリーが6番手からスタートして4位入賞を果たした。ホンダにとってはF1復帰後の最高位である。開幕戦オーストラリアと第3戦中国はポイント圏外で終わった。全21戦のシーズンを通じて、ポイントを獲得したレースは8回だった。

 ’19年は第3戦まで毎戦、どちらか一方のドライバーがポイントを獲得している(10位、9位、10位)。昨年より安定していると言っていいが、この成績で果たしてファンを満足させることができただろうか。

 「いいエンジンを作れば、クルマが多少良くなくても勝てる時代がありました。今はパワーユニットだけが良くてもだめだし、シャシーだけでもダメ。ドライバーだけが良くてもだめで、すべてがそろっていないと勝つことはできません。総合力が求められます」

 こう説明したのは、ホンダでF1マネージングディレクターを務める山本雅史氏である。ホンダのモータースポーツ活動をプランニングし、予算や渉外、PRなどプロジェクト全体を統括するモータースポーツ部に所属する。

 「マクラーレンとはいい勉強をさせてもらいました。最後は気持ち良く離婚することになりましたが、次のことを考えなければなりません。最終的には勝つことが目標です。勝って初めて、ホンダの技術力が証明できると考えているからです。そのためには、シャシーがしっかりしており、ドライバーが優秀で、戦略的なレース運びができるところと組む必要があります。このような視点で検討した結果、トロロッソに続きレッドブルと組むことになりました」

 もちろん、レッドブルにだって選ぶ権利はある。総合力を高める選択肢のひとつとして、ホンダはレッドブル側の基準を満たしたということだ。こうして、’19年からはトロロッソに加え、レッドブルもホンダのパワーユニットを搭載することになった。そのレッドブルは、開幕戦で3位表彰台(ホンダにとって’08年以来11年ぶり)を獲得し、第2戦と第3戦は4位入賞を果たしている(いずれもM・フェルスタッペン車)。上位を占めるメルセデスやフェラーリとの差は小さくないが、勝ちに行くためには総合力が欠かせないことを証明した格好。見方を変えれば、ホンダのパワーユニットが一定のレベルに達していることを証明した。

 そしてもうひとつ。レッドブルは派手なプロモーション活動を得意としており、開幕前に明治神宮外苑で行ったショーランもその一環である。レッドブルと組むと、サーキットの外でも「ウィンウィンの関係を築くことができるのではないか」という期待がある。かつての元気なホンダを取り戻すのも、レッドブルと組んだ理由のひとつだ。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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