「今度、平手選手が水鉄砲のイベントをやるんだって」
そんな話を聞いたのは今年の夏のことだった。「水鉄砲とはまた突飛な…」とは思ったものの、よくよく調べてみると、会場となる芝生広場「町田シバヒロ」の公式ホームページでも紹介されている。
活動母体となる「Rising-K Project」のフェイスブックでは、水鉄砲の種類や貸し出しなどについても真面目に案内されているし、元ロードレースライダーや現役のプロドライバーもゲストに名を連ねている。当日は二輪・四輪のレーシングマシンなども展示され、大盛況だったと後から聞いた。
私が平手晃平選手に出会ったのは2009年。フォーミュラニッポンをaheadがサポートすることが決まり、「ahead TEAM IMPUL」で走ることになった平手選手が編集部に挨拶に来たのが始まりである。とてもしっかりはしていたが、まだ少年という言葉の方がしっくりくるようなあどけなさの残る23歳だった。
あれからもうすぐ10年になる。その間に平手選手は結婚もし、2人の子どもにも恵まれ、スーパーGT500クラスでは2度のタイトルを手にした。1度ならともかく2度もタイトルを獲ったのである。’09年以来、ずっと付き合いを続けて来た私たちも、平手選手の活躍を自分のことのように喜んだ。レースのある日は予選からテレビにかじりつき、調子の悪いときは心配し、ツキの無いときは落胆し、上り調子になれば手に汗握って応援してきた。
だから今季、彼が500クラスから離れて、300クラスで走ることになったときは、平手選手の心中を想い、彼は大丈夫だろうかと心の中で憂えた。
しかし。「オレたちと水遊びしようぜ!」イベントである。そして、続いて去る11月23日にオートパラダイス御殿場で開催されたのが「Festival di 2&4」だ。〝2&4〟の名のとおり、カートもあればバイクもある、四輪のプロドライバーもいれば、二輪のレーシングライダーも参加するというちょっと珍しいイベントと言えるだろう。二輪と四輪のレースが同じ日に行われるということはあっても、二輪のレーシングライダーがカートレースに参加し、四輪のプロドライバーがバイクで走るなんて、そんな突飛なイベントは他にないと思う。
参加者の中には、「モータースポーツファンの友人に誘われて来ました。カート、初めてなんです」という男性もいれば、「お母さんが平手選手のファンで、平手選手のTwitterを見て一緒に来ました」という娘さんもいたりして、ピットは和気藹々、ほんわかした雰囲気に包まれている。企画も運営も準備も進行も片付けも、人任せにせず、平手選手自ら全てに関わり、率先して汗を流した。それが結果となって現れている、とそう思った。
「どうしてそんなに一生懸命、イベントをやっているの?」という質問に対して、彼はこう答えてくれた。「例えばスーパーGTは、あんなにたくさんの人が入ってくれていますが、今モータースポーツを支えてくれている40代、50代に頼ってばかりではいずれは廃れてしまいますよね。だから若い人たちや、モータースポーツに関心のない人たちにどれだけ関心を持ってもらえるかが大事だと思うんです。こんなことを考えるようになったのも自分が親になったからかも知れません。
水鉄砲のイベントは、公園に遊びに来ているごく普通のお母さんや子どもたちが、展示されているクルマを見て、かっこいいなと、ただそう思ってくれるだけでいい。僕もそうでしたけど、子どもって、かっこいいものを見たら、絶対頭のはしっこに記憶として残るものだと思うんです。別に、次にまた来てくれなくても、その記憶だけ残ってくれたらいいんです」
突飛に思えた〝水鉄砲〟にもそんな深い思いがあったのだ。「なぜ〝2&4〟?」と懲りずに聞くと、こんな答えが返ってきた。
「たまたま僕が二輪が好きというのもありますけど、二輪は二輪、四輪は四輪の中だけでなんとかしようとすると限界がありますよね。異文化同士の交流というか、そういうのが大事。だから今回、プロゲーマーのチョコブランカさんにも声を掛けて、一緒にカートレースにも参加してもらったんです。彼女が発信することで、今度は彼女のファンがカートやバイクに興味を持ってくれる。これまでのように自分たちの狭い世界だけでファンを囲い込もうとするようなやり方ではダメだと思っています。実は、僕自身、二輪のレーシングライダーたちに来ていただいたものの、うまくいくかなぁと心配ではあったんです。でも『74daijiro(レース用の小型バイク)』の走行では、参加者のみんながものすごく興味を持って見てくれて、ライダーの人たちもとても喜んでくれたんです。またやりたいって言っていただけて。来年はもっといろんな試みができたらと今後に期待が持てました」
私は彼と話すとなぜかいつも元気になる。それは多分、悔しさや屈辱やかっこ悪さをぐっとこらえ、誰のせいにするでもなく、誰を恨むでもなく、それらを前向きなパワーに変えていく彼のタフさに救われるからだ。彼のイベントにたくさんの人が協力してくれるのもそれが理由だろう。
頭の中にあることを実際に実現し、実現するだけでなく継続的に育てていける人は少ない。彼のこれからも、イベントの今後も影ながら見守ってゆきたい。
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