ブーツを育てるという考え方

文・橋本洋平 写真・長谷川徹

 ガエルネのブーツを履くと、靴が生き物であり、履けば履くほど自分だけの一足になるということが実感できる。

 ガエルネのブーツを手に入れるということは、一つの趣味として成立する奥深い世界に足を踏み入れることでもある。

 クルマもバイクも、それに従う用品もそうだが、いまだ一生モノに出会っていない。いや、もちろん購入する際には「これが最後の……」と思って付き合いだすわけだが、年が経つにつれて他の商品に眼が移ってしまったり、はたまたヤレを感じて買い替えたりという発想がどこか抜けない。浮気性なのか? それともモノに愛着を持てないのか? だが、思いを巡らせてみると決して自らの思考が悪いばかりではないような気もしてくる。クルマもバイクも用品も、いずれも一生モノを想定して造られている製品が少ないのではないか? 僕の手が届くような価格帯のものでは、やはりそれは皆無のような気もしてくる。けれども、ここに登場するガエルネのブーツは、どうやらそんな消費財とはどこか違うようだ。使い続けることで靴が自分にフィットし、靴を育てる楽しみがあるというのだ。そんなガエルネの思いに迫ってみる。

 ガエルネは北イタリアのオーストリア国境近くにあるイタリアンアルプスを見渡せるトレビゾが発祥のブランド。そもそもは登山靴から出発している。この地域はかつて軍用靴を作るために靴職人が集められた地域であり、いま現在も世界的なモータースポーツブランドが他にも軒を連ねている。ガエルネの創業者であるガゾーラ・エルネスト氏は、いまから50年以上前、息子がはじめたモトクロスをきっかけに、モータースポーツ用のブーツを作り始めたそうだ。以来、モーターサイクルブーツとして多くの人々に受け入れられている。

 だが、ガエルネはなにもモータースポーツだけに特化しているわけではない。ブーツである前に一足の良質な靴でなければならないと、作り込みにも拘っている。特徴的なのは、アッパーと靴底を強固に縫い付けるグッドイヤーウェルト製法を用いていること。アッパーとインナー側、そしてアッパーと靴底を2回に分けて縫い合わせている。だから2重の縫い目が見えるのだ。グッドイヤーウェルト製法はそもそも縫い目のある製法としては水が侵入しにくく、さらに長期間使用すると足の形にそこが変形するため、独特のフィット感を生み出す特長がある。それを丁寧に2重にしているのだから頼もしい。制作はイタリアの靴職人が行っており、妥協無く仕上げているというところも好感が持てるポイントだ。

北イタリアのトレビゾにあるガエルネの工場の様子。今では全工程が手作業というわけではないが、機械化されても、その機械をいかに使いこなすかに職人の技術が問われ、昔と変わらず、そこには職人技が生きている。工場で作業しているのはみんな熟練のイタリア人職人だそうである。

 今回取り上げるNo.145とフーガは、日本人専用の木型を採用。日本人のどちらかといえば幅広で甲高な足にもフィットするように設計されている。さらに、輸入元のジャペックスはガエルネを長く愛してもらおうと、イタリアのファクトリーと同様の修理設備を開設。J-REPAIRと名付けられたそれは、末永くガエルネを使えるように安価で修理を受け付けている。飽きの来ないデザインと共に、この体制が敷かれているのであれば、まさに一生モノと成る可能性は高い。

 一生付き合えると思えるのはそれだけではない。補強部材には鉄やプラスチックなどを用いず、分厚い皮を重ねることで長年使った際に自然にシワがよるように考えられている。インナーにはコルクのような素材や仔牛革を用いることで、長く使えば使うほど足にフィットするというところも見逃せない。

 慣らしを必要とするガエルネのブーツは、ハッキリ言ってはじめは硬くてお世辞にも履き心地が良いとは思えない。北海道の雪へと連れ出したが、まだまだ硬さは否めない。歩くにはちょっと気を遣うところがあるが、ブーツの割には軽く仕上がっている感覚があること、そして雪解け水があるような状況であっても、水分が沁みてくるようなことが無かったことが好感触。一方、バイクに乗る際、ブレーキング時などは足首のあたりが窮屈な感覚もあるし、ギアチェンジについてもどこか硬さを意識する状態が続いている。ただ、踵やくるぶしあたりは一体感や剛性感があり、いざという時の足の保護にも役立ちそうなところがマルだ。

冒頭写真のNo.145 は本誌・神尾の個人所有品。家の中で履いたり、実際に歩きながら慣らしを続けて1ヵ月半ほど使用した状態。すっかり本人の足型に馴染んできている。上の写真では確認し難いが、傷ついた後に、オイルを塗って手入れを続けたら傷口が塞がってきた(ように見える)。革は生き物なのだ。左の写真は履き降ろす前の橋本氏のブーツ。オイルを塗布してないので光沢が自然でシワもない。ブーツはシワや傷、色の変化を自分の歴史として楽しむことができる男の趣味でもある。

 今後は週2回の使用で3カ月くらいのナラシが必要だというが、履いた後にシッカリと乾燥させることが良いブーツに育てるポイントなのだとか。そうしないと、変なクセがついてしまうらしい。まるで生き物のようだ。一体3ヵ月後にはどんな従順なブーツに成長させることができるのか? ガゾーラ・エルネスト氏の思いが込められたこのブーツなら、一生付き合って行けそうである。

No.145

価格:31,000円(税別)
サイズ:23.5cm~28.5cm(0.5cm刻み)
カラー:ブラック、ブラウン
外装:本革/内装:仔牛革
ソール:ビブラムブロックソール

フーガ

価格:25,500円(税別)
サイズ:23.5cm~28.5cm(0.5cm刻み)
カラー:ブラック、ナットブラウン、グリーン
外装:本革/内装:仔牛革
ソール:ビブラムブロックソール
写真のフーガは本誌・若林が2年前にモンゴルラリーで使用したもの。


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