乗っている時間と同じくらい、眺めている時間を楽しめたら、クルマやバイクと過ごす時間はもっと充実したものになる。
一方、走ることによってより活き活きと魅力的に見えるクルマもある。
人はどんなクルマのどんなところに色気を感じたり、惹かれたりするのだろう。
青い眼から見た日本車の色気
僕は、いろんな機会に日本車のデザインはどうかと聞かれる。やはり、生まれ育った場所が皆と違うし、テイストや価値観が多くの日本人と違うので、僕が色気があると思うクルマで読者の好みと一致するクルマがあれば、当然、異なるものもある。
例えば、1969年に生まれたフェアレディZこと、ダットサン240Zなら、皆さんは「うん、格好いい」と頷くだろう。同車はアメリカの自動車業界に最も影響を与えたクルマ「トップ10」にランクインされている。それはもちろん、性能的にも、コストパフォーマンス的にも、デザイン的にも優れているということだ。何よりも「プアマンズ・フェラーリ」と呼ばれたフェアレディは、ポルシェ911Tより速かったからね。
でも、90年代に生産された三菱FTOはどうだろう。どんなデザインだったか思い浮かべられない人も多いと思うけど、実はこのクルマは1994~1995年の日本カー・オブ・ザ・イヤー賞を受賞している。僕はFTOのボディに色気を感じる。外国人から見ると、非常にジャポネスクというか日本らしいスタイリングだと考える。
1967年の映画「007」に登場したトヨタ2000GTや、世界初のロータリー生産車マツダ・コスモスポーツからも美しい日本のデザインの美意識を感じる。しかし、正直なところ、多くの日本車のデザインは、機能性とバリューを最大限に出すために、色気を犠牲にしていると思う。欧米の同僚には同感する人も多い。例えばアメリカで毎日、1,000台以上販売されるトヨタ・カムリやカローラ、それにホンダ・シビックは多くのユーザーのニーズに応えているが、決して美しいとは言い切れない。
でも、日本でかなり頑張っているメーカーがある。ズバリ言うと、マツダは日本のデザイン界をリードしていると思う。2012年に登場したCX-5は同社の代表的な鼓動デザインを初めて採用した。それから、CX-3、ロードスター、アテンザ、アクセラなどが発売されたが、どれも道路を走る色気そのものだと思う。このブランドが海外でどれだけ人気があるかと言うと、例えば、100万台の市場を持つオーストラリアでマツダは何と10%のシェアをずっとキープしてきている。トヨタが19%のところで、マツダは10%だぜ! マツダ車は格好いいし、コストパフォーマンスや走りが高く評価されているからこそ、そんなに売れているわけだ。
人気のSUVのジャンルでは、日産カッシュカイ(日本名・デュアリス)がイタリアでの同社のブランドイメージを変えるほどのヒット商品だった。それまで日産と言えば、ほとんどのイタリア人が思い浮かべるのは「マーチ」だったが、2006年にカッシュカイが出てからは、同車が日産のブランド・ヒーローになった。サイズも価格もちょうど良かったし、何よりも色気のあるデザインが女性にも男性にも受けた。
ところで最近では、僕はレクサスLCから珍しく色気を感じる。つまり、日産GT-RにもホンダNSXにもない色気だ。正直なところ、レクサスの代表的な顔であるスピンドル・グリルからはそれほど魅力を感じていなかった。でも、LCを初めて見た時に、僕の意見はコロッと変わった。レクサスのラインアップの中でこのLCを見て、初めて同車のサイズとプロポーションにぴったり合う形になっていると思った。LCは間違いなくレクサスがこれまでに作った最も色気のある車種だと確信する。そういえば、この前の東京モーターショーに登場したスバルのヴィジヴ・コンセプトは同社が今までに出した中で一番色気のあるデザインだと思えた。マツダにしても、レクサスにしても、スバルにしても、皆波に乗っているから、できる限り独自のデザイン・テイストを築いて欲しいね。
「特集 「クルマの色気」の続きは本誌で
ドイツ車の色気について 岡崎五朗
小さいクルマには色気がある 今尾直樹
V4になったドゥカティの魅力 伊丹孝裕
青い眼から見た日本車の色気 ピーター・ライオン