ヘルメットのグラフィックデザインにはその人の個性が表れる。ヘルメットはバイクに乗る上で必要不可欠であるため、誰もが必然的に被っている。
故に、安全性を高める目的と同時に、個性を表現するツールにもなっているのだ。そんなヘルメットに、グラフィックデザインで、その人の強烈なパーソナリティーを刻みつける人がいる。アルド・ドゥルディ氏その人だ。
マニアックな2輪レースファンにはお馴染みの「ドゥルディ・パフォーマンス」を率いるイタリア人デザイナーは、MotoGPで活躍するバレンティーノ・ロッシやマルク・マルケス、WSBKの3年連続王者ジョナサン・レイ、さらには、レジェンドライダーであるケビン・シュワンツやランディ・マモラ、といった名だたるライダーたちのグラフィックデザインを生み出した。他にも、毎年デザインを変えて限定販売されるマン島TTのオフィシャルヘルメットや、ドゥカティやHRCのオリジナルヘルメットなど、その活動はライダーに向けたデザインだけに留まっていない。しかしよく見ると、ライダー用を除くとアライにしかデザインを提供していないのだ。ロッシの使っているagvでも、ロッシのデザイン以外にそのロゴマークは刻まれておらず、選手のレプリカ以外でドゥルディ・パフォーマンスのグラフィックを楽しめるのは、今のところアライだけしかない。なぜなのか?
アライヘルメット とアルド・ドゥルディ氏の出会いは80年代に遡る。1983年に当時ヘルメットの激戦区だったヨーロッパに、アライはアライヨーロッパを設立。その直後、ダイネーゼから純正ヘルメットを作る話を持ちかけられた。そしてその時のダイネーゼのデザイナーがドゥルディ氏だったのだ。その後も連絡を取るようになり、アライヘルメットのグラフィックも手がけることになった。当時の海外業務担当者は、「ドゥルディ氏がデザインした最初のアライヘルメットは、2代目のケビン・シュワンツだったはずです。このレプリカヘルメットを発売した頃、欧州では、アライは価格が高いと文句を言われていました。けれどもケビンのレプリカだけは爆発的に売れたんです」 その後、アライの契約ライダーをドゥルディ氏に紹介するなどといった関係が続き、ドゥルディ氏の方から「メーカーのオリジナルモデルのデザインはアライだけにする」とわざわざ申し出があったという。
ドゥルディ氏のデザインは、ヘルメットに直に手書きすることから始まる。なんとも職人的な手法だ。そんな職人的な部分が日本人の気質や、信念を持ったヘルメット造りを続けるアライと相通ずるものがあったのだろう。また、ライダー用のヘルメットについても商品化することを念頭に置き、スポンサーロゴを外しても成立するデザインを最初から行っている。そういった細やかな配慮のせいか、ドゥルディ・パフォーマンスのグラフィックには、被る人を奮い立たせたりハッピーにする力がある。被っていることに誇りを持てるデザインなのだ。
ライダーを応援するためにレプリカを買う人もいる。ライダー好きが高じて歴代のレプリカをコレクションしている人もいる。へルメットのあり方は、今や安全のために被るだけではなく、自己のアイデンティティの表現手段、そして、コレクションアイテムとしてもその存在感を放っているのだ。今後、外出先でライダーを見かけたら、被っているヘルメットに注目してみて欲しい。もしかしたら、その人の中身がみえてくるかもしれない。
Aldo Drudi(アルド・ドゥルディ)/Drudi Performance
1958年、イタリアのエミリア・ロマーニャ州に生まれる。80年代初頭、ヴァレンティーノ・ロッシの父、グラツィアーノ・ロッシのヘルメットをデザインしたのが最初だという。以降、数々の一流ライダーのヘルメットを手がけるが、メーカーとのコラボは一貫してアライのみ。「アライは企業姿勢として安全性を最も重視して追求しているからです。彼らと一緒に働くことを誇りに思っています」とのこと。(以下QA)
Q:ヘルメットのデザインをする上で大事にしていることは何ですか。
A:「ライダーとの関係を構築することが重要だと思っています。ライダーにとってヘルメットはライダーの顔そのもの。だからライダーと最近の生活や特別な出来事についてよく話をして、そこから発想します。デザインがライダーを奮い立たせるかもしれない。ライダーの感情をヘルメットに映し出しているんです」
Q:デザインを手書きで起こす、と聞きました。
A:「白い紙に手で描き始めます。この先をこうして…というプランはPCのメモリにあるのではなく、全て私の心の中にあるんです。だからコンピュータは必要ありません」
写真のバイクはドゥルディ氏がVFR1200FをベースにデザインしたBruasca1200。