前回、速報でお伝えした三菱の燃費不正問題は、三菱の日産傘下入りへと発展した。シナリオとしては想定していたが、まさかこれほどスピーディーに事が運ぶとは思っていなかった。
電光石火のごときカルロス・ゴーン社長の判断が吉と出るか凶と出るかはちょっと予想が付かないが、少なくともゴーン氏にとって、三菱が喉から手が出るほど欲しかった「物件」であることは間違いない。
日産は2011年に「2016年に世界市場シェア8%、営業利益率8%を達成する」とした中期経営計画を発表した。営業利益率達成の見込みはついたものの、シェア8%は未達で、赤信号に変わる寸前の黄色信号状態。「シェア8%はコミットメントではなく努力目標だ」などという弱気な発言も飛び出していた。ところが販売台数107万台の三菱を傘下に収めることによって、日産はシェア8%というコミットメントを見事に達成。これで社長の座はしばらく安泰である。共同記者会見時のゴーン氏の満面の笑みは、コミットメント達成の安堵と僕は受け止めた。その先にあるのはもちろん「世界最大の自動車メーカーのトップになる」という彼の野望。ルノー、日産、三菱を合わせれば1,000万台弱になり、トヨタ、VW、GMの背後にピタリと迫ることになる。
事業面で見ても、共同購買やプラットフォーム共通化によるコスト削減、相互の技術を活かした電動化の推進、それぞれの得意地域での協業などバラ色の未来が拡がっているかのように見える。しかし、筆頭株主が変わったところで三菱の問題は実のところ何ら解決していない。退任が決まった三菱の相川社長も熱心に企業改革に取り組んでいた。親会社から派遣されてきた外様経営者だからこそできることもあるだろうが、だからといって燃費不正問題の温床となった社風やコンプライアンス意識の欠如が嘘のように改善されるとは考えにくい。大切なのは、不正に関わった人はもちろん、そうでない大部分の人を含め、一人ひとりの三菱社員が今回の不祥事を自分事として受け止め、二度とこのようなことを起こさないと心に誓うこと。三菱の再出発はそこからスタートするべきだと思うのだ。
TOYOTA PASSO
トヨタ パッソ
“軽”の人気を奪取できるか注目したい
トヨタ・パッソは、ダイハツが開発し、トヨタにOEM供給するコンパクトカー。ダイハツブランドでは「ブーン」というネーミングで販売される。開発の狙いは、軽自動車へと流れていくユーザーを登録車につなぎとめること、あるいは引き戻すこと。それは、パッソの「軽じゃないK」、ブーンの「軽の技術でコンパクトを変えていく」という、軽自動車を強く意識したキャッチフレーズにもはっきりと表れている。
ひと頃の勢いはないものの、軽自動車はいまだ高いシェアを維持している。維持費の安さに加え、魅力的なモデルを次々と生みだしたことが軽自動車人気の原動力だ。言い換えれば、多くの人はコンパクトカーに乗る積極的な意義を見いだせず、軽自動車で十分と考えているわけで、それを覆すには商品にそれなりのインパクトが求められる。
そう考えると、パッソ/ブーンの説得力は少々弱いなと思った。価格は軽自動車に負けないぐらい安い。燃費もいい。定員4人の軽自動車と違い5人乗れる。けれど決定的な違いは定員のみ。ざっくり計算して年に約4万円という維持費の差を覆すほどの説得力があるかと問われれば、答えに窮する。
もちろん、クルマの魅力は数字だけじゃない。見て、乗って、惹かれるものがあれば多少の数字など気にならなくなるものだ。とはいえ、残念ながらその観点でもパッソ/ブーンには高い点は付かない。1ℓエンジンはとくに力強くもないし、回転域によってはゴロゴロした振動とノイズが気になる。乗り心地やハンドリング、直進安定性も同様。インテリアの質感を含め、ムーヴのようなよくできた軽自動車と比較すると、満足できない部分が多かった。価格を考えれば軽を大きく超えるのは無理な注文かもしれない。が、少なくとも軽自動車並みの出来映えを提示しなければ説得力はない。僕ならマイナーチェンジで走行性能を高めてきたヴィッツを選ぶ。
トヨタ パッソ
全長×全幅×全高(mm):3,650×1,665×1,525
車両重量:910kg
定員:5人 エンジン:直列3気筒DOHC
総排気量:996cc
最高出力:51kW(69ps)/6,000rpm
最大トルク:92Nm(9.4kgm)/4,400rpm
JC08モード燃費:28.0km/ℓ
駆動方式:前輪駆動
NISSAN NOTE NISMO S
日産 ノート ニスモS
“ホットハッチ”に豹変した、無二の日本車
日産のモータースポーツ部門であるニスモが長年にわたるモータースポーツ活動で得たノウハウを投入したのがノート ニスモだ。精悍なエアロパーツに加え、要所要所に補強パーツを組み込みボディ剛性を強化。サスペンション、ブレーキ、タイヤも高性能なものに換装した。エンジンはベースモデルと同じ1.2ℓスーパーチャージャー+CVTを搭載する「ノート ニスモ」もあるが、今回試乗したのは専用チューニングを施した1.6ℓ+5速MTを搭載する、さらにホットな「ノート ニスモS」だ。
ニスモSは、走りだした瞬間から痛快なドライビング体験をもたらしてくれる。ベースとなった日産ノートも安くてカッコよくて室内が広いクルマだが、それ以上の魅力があるかと問われたら答えに詰まってしまう。正直に言えば、乗って楽しいわけでも、快適なわけでもない。むしろ見えないところでコストをケチったなという安手の乗り味が僕は好きではない。その点、ニスモSには、鍛え上げられたクルマだけがもつ本物感と、開発者の熱い想いがギュッと凝縮されている。それこそ、駐車場から道路に出るときの小さな段差をトンッと降りただけで、ボディ剛性の圧倒的な違いを感じるのだ。
1.6ℓエンジンは最高出力こそ140psに過ぎないものの、気持ちのいいサウンドを奏でながらトップエンドまで鋭く回りきる。なかでもアクセル操作に対して瞬時に反応するレスポンスは最高だ。ガッチリしたボディ、引き締まっているがしなやかに動くサスペンション、正確なハンドリング、ダイレクトな操舵フィール、コントロール性に優れたブレーキなども素晴らしい出来映え。乗ればクルマを操る楽しさを再認識できること請け合いだ。いまやほとんど死語となってしまった「ホットハッチ」という言葉をこれほどストレートに感じさせてくれる日本車は他にない。これで227万円は安い!
日産 ノート ニスモS
全長×全幅×全高(mm):4,190×1,695×1,515
車両重量:1,080kg 定員:5人 エンジン: DOHC水冷直列4気筒
総排気量:1,597cc 最高出力:103kW(140ps)/6,400rpm
最大トルク:163Nm(16.6kgm)/4,800rpm 駆動方式:前輪駆動
TOYOTA AURIS HYBRID
トヨタ オーリス ハイブリッド
世界戦略車×ハイブリッド
欧州市場最大の激戦区はVWゴルフを中心に回るCセグメント。各社の屋台骨を担う強力な実力車がズラリ揃ったこのセグメントでオーリスは大健闘している。月販でコンスタントに1万台超えという数字は、1,000台にも満たない国内販売の惨状とは対照的だ。
「トヨタが産んだ欧州車」というキャッチフレーズからもわかるように、オーリスはゴルフと対抗すべく開発された欧州戦略車であり、日本ユーザーの好みはあまり考慮されていない。全幅は3ナンバーとなる1,760㎜だし、走行性能を高めるべく見えない部分にコストをかけたため価格も高めだ。とはいえそれはゴルフとて同じこと。強大な販売力を持ってしても日本市場でゴルフに勝てないのはトヨタとしては大いに不満だったはずだ。
もっとも、僕としてはオーリスが日本で売れないのはやむを得ないことだと思っている。デザインや内装の質感はパッとしないし、エンジン(1.5ℓと1.2ℓターボ)にも面白味がない。フットワークの出来映えはいいが、さりとて惚れ惚れするほどの水準ではない。それでいて価格がゴルフとほぼ同等であれば、よほどの国産車ファンでない限りはゴルフに行くのが当然だし、国産車ファンにはプリウスもある。そう、どんな角度から眺めてみても勝算はないというのが、日本におけるオーリスの状況だったのだ。
そこで起死回生の切り札として導入したのがハイブリッドモデルである。日本ではプリウスと差別化するためこれまでハイブリッドを販売していなかったが、欧州で売れているオーリスの半数以上がハイブリッド。ならば日本でも販売しようとなったわけだ。デビューから約4年後となるこの決断は遅きに失した感もあるが、欧州仕込みの走り味とハイブリッドの組み合わせはなかなか魅力的だ。プリウスの超先進的なデザインにどうも馴染めないと思っている人にとっては有力な選択肢になるだろう。
トヨタ オーリス ハイブリッド
*北海道地区、沖縄地区は価格が異なります
全長×全幅×全高(mm):4,330×1,760×1,480 車両重量:1,400kg
定員:5人 エンジン:直列4気筒DOHC 総排気量:1,797cc
最高出力:73kW(99ps)/5,200rpm 最大トルク:142Nm(14.5kgm)/4,000rpm
JC08モード燃費:30.4km/ℓ 駆動方式:前輪駆動
VOLVO XC90 T8 Twin Engine AWD Inscription
ボルボ・XC90 T8 ツインエンジン AWD インスクリプション
ボルボ、PHEVを日本初導入
高価格帯モデルであるにもかかわらず、ボルボXC90の販売が好調だ。この背景にあるのはプレミアムSUV人気だが、裏を返せばライバルが多いことにもなる。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディといったドイツ御三家に加え、ポルシェやレクサスといった名だたるブランドがSUVをラインアップするなか、存在感を発揮するのは容易なことではない。にもかかわらずXC90が人気を集めているのは、ライバルたちにない独自の個性や魅力をもっているからだ。
ボルボが「スカンジナビアン・ラグジュアリー」と呼ぶデザインテイストは、ドイツのプレミアムカーとは一線を画す。もちろんドイツ車にもそれぞれの個性があるけれど、XC90を前にすると「ドイツ車」と一括りにしてもいいなと思えるほどにXC90はユニークだ。押し出し感よりも端正な美しさを重視したエクステリア、シンプルなのに暖かみのあるインテリアはまさにスカンジナビアンデザインの真骨頂。加えて惜しげもなく投入した数々の最新安全装備や、大人でもちゃんと座れるサードシートなど、トピックには事欠かない。
そんなXC90の最上級グレードにあたるのがプラグインハイブリッドモデルの「T8ツインエンジン」だ。ツインとは、ターボとスーパーチャージャーで過給する2ℓエンジン+モーターという意味であり、両方合わせれば400psを超える出力を誇る。当然ながら動力性能は十分に頼もしく、2.3トンというボディ重量を意識させられことはない。速さ、気持ちよさはエンジンのみのT6より上だ。一方、俊足は期待できないものの、エンジンを始動しないでモーターだけで走行することも可能。自宅等で容量9.2kWhのバッテリーを満充電しておけば、カタログ上で35.4㎞、実用でも20kmプラスαはEVとして使える。
価格は1,000万円を超えるが、PHEVは補助金も受けられる。XC90の受注の20%を占めるのも頷ける話しである。
ボルボ・XC90 T8 ツインエンジン AWD インスクリプション
全長×全幅×全高(mm):4,950×1,960×1,775 車両重量:2,320㎏ 定員:7人
エンジン:インタークーラー付ターボチャージャーDOHC水冷直列4気筒 横置き・16バルブ
総排気量:1,968cc 【エンジン】最高出力:235kW(320ps)/5,700rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2,200~5,400rpm
【モーター】最高出力:34kW/2,500rpm(前)、65kW/7,000rpm(後)
最大トルク:160Nm/0~2,500rpm(前)、240Nm/0~3,000rpm(後)
Goro Okazaki