インフルエンサーが注目する第2段階に入ったレクサス

「最近、クルマ感度の高い友人たちがこぞって〝レクサスが気になりはじめている〟と言うようになってきたんですよ。

 レクサスなんて所詮は高級なトヨタ車だろって思ってた僕としてはちょっとビックリなんですが、最近のレクサスってそんなにいいんですか?」

 先代アウディA4に乗っているこの知人は、ライフスタイル商品としてのクルマには興味があるが、自動車雑誌を熱心に読むようなタイプではない。A4を買うときも、アウディならイケてるだろうという理由で選んだ。

 僕の回答はというと「前とは比べものにならないぐらい、いいクルマを作ってるよ」 この時点で、レクサスは彼の有力な次期購入候補車へと昇格したようだ。

 とはいえ、僕の回答が彼の認識を変えたわけではない。なぜなら、上の発言は個人的会話でしか言えない本音でもなんでもなく、いろいろなメディアですでに書いたり喋ったりしていることだからだ。おそらく本人は意識していないが、質問してきた時点で彼のレクサス像は「所詮は高級なトヨタ車」という否定から、肯定とまではいかずとも、ニュートラルにはなっていた。そういったベースがなければ、僕ら専門家が何を言おうが馬の耳に念仏である。

 クルマにはさほど詳しくない。さりとてノンポリでもない彼のような人物がいちばん避けたいのは「あいつレクサスなんて買っちゃったよ。まったく何もわかってねーな」と思われること。しかしそれを解決してくれるのは不特定多数の人が書き込むネットの口コミ掲示板ではなく、クルマに詳しい人や流行の先端をいってる人、著名人など、インフルエンサーと呼ばれる人からのお墨付きだ。もちろん、俺は直6を積んだBMW以外は乗らないとか、イタ車以外に興味はないと言い切るようなマニアもいるが、多数派を占める彼のような普通のクルマ好きにとって、自分の選択は間違っていないんだと確信させてくれるのは、自分が一目置き、行動のお手本としているインフルエンサーの評価なのである。

コンセプトモデルから4年。市販化が発表されたラグジュアリークーペ「LC」は、今後のFRモデルの基礎となるまったく新しいプラットフォームの採用や、デザインテイストの進化など、レクサスブランドに変革をもたらすであろう一台となった。「LC500」には、V型8気筒5.0リッターにレクサス初の10速ATが、ハイブリッドモデルの「LC500h」(写真)には、世界初のマルチステージハイブリッドシステムが搭載されている。

 東京でもっともファッショナブルなエリアである青山にカフェレストランをつくったり、華やかなイベントを定期的に実施したり、文化活動をサポートしたり、高級男性ファッション誌に広告を出したり…レクサスはインフルエンサーを対象にしたコミュニケーション活動を地道に続けてきた。目的はもちろん、影響力の強い人のハートを掴むことによりその周囲にいる人たちに影響を与えること。不特定多数に訴求するテレビCMと比べればリーチできる人数は圧倒的に少なく、即効性も期待できないが、レクサスのようなプレミアムブランドにとってはこの手法がもっとも効果的かつ高効率だ。

 とはいえ、単に華やかなパーティーだけやっていてもブランド価値は高まらない。それどころか、浮ついたブランドと思われるのがオチである。その点、現行ISの登場を機に、レクサスは優れたクルマ作りの基本であるボディ剛性を飛躍的に高めてきた。事実、IS以降に登場したRC、NX、RXといったモデルに乗ると、ハードウェア面でも本腰を入れて世界のプレミアムブランドと対抗しようとしていることが肌感覚で伝わってくる。

 そう、ドイツ車もいいけどレクサスもいいねという空気は、ここにきて前述した巧みなイメージ戦略と真摯なハードウェア作りという両輪が噛み合ってきたからに他ならない。

 そんななか、2017年に発売される予定のフラッグシップクーペ「LC」がお披露目された。妖艶な外観や華やかなインテリアを見ただけでハートを鷲づかみにされたし、投入されているテクノロジーや作り手の思い入れもスゴい。欧州のプレミアムカーに追いつき追い越せというのがこれまでのレクサスだったとすれば、今後はトップランナーとして新しいプレミアムカー像を牽引していくのではないか。そんな予感がヒシヒシと伝わってきた。LCの登場によってレクサスの評価はますます高まっていきそうだ。

文・岡崎五朗 写真・長谷川徹

最上級車の「LS」に次ぐ高級4ドアセダンとして、躍動感と品格を追求し続けてきた本格グランドツーリングセダン「GS」(写真上)。プレミアムSUV「RX」(右下)は、洗練されたスタイリングがSUV=タフというイメージを覆し、現在のプレミアム・クロスオーバーSUV人気に火を付けた。RXよりひとまわりコンパクトで、都市型ユースに適したSUVが「NX」(左下)。ダウンサイジングの流れを受けて、トヨタとしては7年ぶりにターボモデルを復活させた。

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