F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 PLUS vol.15 18歳、初優勝の衝撃

 F1第5戦スペインGPで優勝したのは、トロロッソからレッドブルに電撃移籍したマックス・フェルスタッペンだった。

 最前列を独占したメルセデスの2台がスタート直後に同士討ちでリタイヤする波乱の展開ではあったが、移籍後最初のレースでの優勝は十分に衝撃的だった。しかも、史上最年少である。18歳228日での初優勝は、トロロッソ在籍時代の2008年に21歳73日で当時の記録を更新したS・ベッテル(フェラーリ)の記録を大幅に塗り替えた。

 1997年9月30日生まれのフェルスタッペンが2015年にF1デビューを果たしたときの年齢は17歳だった。その前年にヨーロッパF3に参戦しただけ(年間3位)でF1にステップアップ。2年前までカートに乗っていた「子」が世界の頂点であるF1にやってきて、参戦2年目には優勝してしまったのである。ベテランは肩身が狭くなってしまうが、フェルスタッペンを追いかけた末に2位に入った現役最年長ドライバー(1979年10月17日生まれの36歳)のK・ライコネン(フェラーリ)は、「僕は彼のお父さんと一緒にレースをしたことがある。それを考えると恐ろしいね。でも、これがF1さ」と淡々と話した。

 今後、フェルスタッペンが打ち立てた記録を破るのは、かなり厳しくなった。というのも、F1はドライバーの低年齢化に歯止めをかけるため、年齢制限を導入したからだ。2016年以降、F1ドライバーになるには「18歳以上であること」「自動車運転免許を持っていること」「最低2年間のフォーミュラ参戦経験があること」などの条件が定められたのだ。フェルスタッペンのように17歳で免許も持たず、かつフォーミュラの経験が1年しかなくてF1にステップアップすることは不可能になった。

 F1ドライバーの低年齢化を促した要素は2つある。1つは技術の進歩。もう1つは英才教育だ。かつてはカートからいくつかのフォーミュラを経験し、サーキットで腕を磨いてF1に登り詰めるのが王道だった。ところが近年は、運転状況を高精度に再現できるドライビングシミュレーターで運転を覚えることが可能になった。この最先端の室内試験装置なら、いくらミスをしてもクルマを壊すことがないし、天候も時間も選ばない。フェルスタッペンが移籍先のチームでいきなり好成績を残すことができたのも、事前にシミュレーターでトレーニングしたおかげである。

 そして英才教育。これは今に始まったことではないが、マックスの父、ヨスは元F1ドライバーで、マックスは4歳の頃にカートレースを始めている。トロロッソ時代にチームメイトだったカルロス・サインツJr.(1994年9月1日生まれ、21歳)の父は、WRCで2度のタイトルを獲得したラリードライバーだ。F1はコネだけでのし上がれるほど甘い世界ではないが、父親の人脈が役に立ったことは間違いない。

トロロッソの役割は、若手ドライバーを発掘して育て、姉妹チームであるレッドブルに送り込むこと。つまり、トロロッソが2軍ならレッドブルは1軍の関係。’14年に19歳でトロロッソからデビューしたD・クビアトは’15年にレッドブルに昇格していた。ところが、’16年はシーズン序盤の走りが精彩を欠いたこともあり、異例とも言えるシーズン中のトレードを実施。結果、フェルスタッペンが1軍に昇格したわけだ。移籍1戦目での優勝は、実力だけでなく運も備えていることを証明した。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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