この旧式のトライアンフは、ヨシムラのメカニック兼テストライダーだった浅川邦夫さん(現アサカワスピード代表)の個人所有車である。
’99年に自身がアメリカのデイトナのレースへ出場するために製作されたものだ。浅川さんはヨシムラ時代に2度の鈴鹿8耐優勝や全日本選手権の3連覇に関わっただけでなく、ヨシムラ・ボンネビルの開発の中心的存在でもあった。ヨシムラを退職後は、am/pmレーシングを立ち上げ、辻本 聡氏を擁してNSR500を走らせている。
その浅川さんが’72年製のトライアンフを改造してレースに参戦すると聞いたときは、それまでの活動とあまりにも乖離していたので当初はすぐに興味が持てなかった。しかしこの車両が作られていく過程を見るにつれ、浅川さんのキャリアが滲み出ていることに気付いたのだ。
シンプルで一切の華飾を排した車体構成は、クラシックバイク固有の古臭さや鈍重さを感じさせず、むしろ新しさや軽快感をイメージさせる。アルミ削り出しのトップブリッジやステンレスの手曲げマフラー、カタナのフォークやGSX-Rのタコメーターなど、馴染みのある部品が使用されているところも身近に感じた要因だろう。無駄に主張せず、まさに〝機能美〟という言葉を体現したような佇まいは、日本製の四気筒バイクで育ってきた自分たち世代をインスパイアするものがあった。
完成から17年経った現在の目で見ても、このトライアンフは当時の新鮮さを失ってはいない。それどころか現代のバイクが見習うべきところが多くあるように思う。デザインの意味を履き違えた〝威嚇系〟や陳腐で媚びた“クラシック風”バイクがはびこる今こそ、時代や世代を超える本物のスタイルが求められているはず。浅川さんのトライアンフを見るたびに、バイクは不必要に飾り立てるべきではないということをいつも考えさせられる。