岡崎五朗のクルマでいきたい vol.79 TNGAの第一号車

 TNGAとは、トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャーの略。トヨタが推進する「もっといいクルマづくり」の中核を担う技術であり、その第1号車が新型プリウスとなる。

 プリウスを皮切りに、今後TNGA適用モデルが次々とデビューし、2020年には生産されるトヨタ車の半数、約500万台がTNGAになる見込みだ。

 というと、TNGA=共通プラットフォーム(車台)と思われるかもしれない。しかしTNGAが狙っているのはもっと高度なもの。従来のプラットフォーム共用化は適用できる車種が限られ、サイズや重量の異なる新車をつくるたびに多くの専用部品の開発を必要とした。トヨタでもプラットフォームの共用化を進めていたが、部品の共用化率は伸び悩んでいたという。TNGAではプラットフォームという大括りではなく、部品単位でグルーピング化し、それらをモジュールとして組み合わせることで複数車種への適用を可能とした。そういう意味で、TNGAとはハードウェアではなく、クルマ作りの方法論と言った方がしっくりくる。いずれにせよ、部品の共用化率が高まれば開発コストが下がり、大量発注によってもコストは下がる。ただでさえトヨタのコスト競争力は世界一なのに、さらに低コストになったらさぞかし儲かるだろう。

 「いえ、そうじゃないんです。TNGAの究極の目的は、もっといいクルマをつくってお客様を笑顔にすることなんです」(新型プリウスチーフエンジニア豊島氏)

 失礼ながら、トヨタのことだから浮いたコストは懐に入れるんだろうなと思っていた。が、そうではなく、TNGAによって浮いたコストを良質な部品や優れた構造に使えば、同じ価格でもっといいクルマをつくれるようになりますよと、どうやらそういうことらしいのだ。実際、新型プリウスでは、従来のプリウスでは手が回らなかった基本性能を高めることで、運転して感じる気持ちよさを徹底的に磨き込んだという。

 果たしてそれは本当なのか? TNGAの成果はきちんとユーザに還元されているのか? それを確かめるべく試乗会へと足を運んだ。注目のレポートはこのページの続きで。


TOYOTA PRIUS
トヨタ プリウス

あのプリウスが大きく進化 “乗り味”という新たな魅力

 いまや日本を代表するモデルとなったプリウス。’97年に登場した初代はハイブリッドだから売れなかったが、2代目でハイブリッドに対する理解が進み、3代目ではついに「ハイブリッドだから売れる」状況をつくりだした。とはいえ、もはやハイブリッドは珍しいメカじゃない。ハイブリッドを搭載したライバルたちに対しプリウスは何をアピールするべきなのか。4代目で問われたのはそこだ。

 結論から言って、新型プリウスは途方もなく大きな進化を果たした。一部グレードではあるものの、ついに40km/ℓ台を達成した燃費。それも立派だが、僕としては燃費以外の進化に驚いた。先代の弱点だった乗り心地と静粛性と直進安定性が「別物」と言っていいほど向上しているのだ。その差は大人と子供ほどであり、試乗してみれば誰もがたちどころに体感できる。なかでもいちばんわかりやすいのが静粛性だ。ドアを閉めた瞬間に外部騒音がシャットアウトされ、室内がしんと静まりかえる。ロードノイズやエンジン&モーター音も驚くほど静かで、重厚なドアの閉まり音を含め、おまえはクラウンか! と突っ込みたくなるほど。とくに、サイドウィンドウが遮音タイプの2重ガラスになっている上級グレードの静粛性は抜群だ。

 加えて、極低速域からしなやかに動く足や、ドッシリと落ち着いた直進安定性が、新型プリウスに質の高い乗り味を与えている。煩雑なデザインの顔つきや、先進感が薄れたコックピットなど気に入らない部分もあるけれど、新型プリウスにはそれを差し引いて余りあるほどの魅力が備わっている。

 意義深いのは、国産ベストセラーカーにこうした上質な乗り味が与えられたこと。美味しいものを食べると舌が肥える。舌が肥えれば美味しいものを求めるようになる。新型プリウスがもたらす体験は、燃費や価格に偏りがちだった日本車に、「乗り味」という新しい競争領域を加えることになるだろう。

低重心パッケージに加え、ボディのねじり剛性を約60%向上させた高剛性ボディやダブルウィッシュボーンリヤサスペンションの新たな採用などによって、“走る楽しさ”や“乗り心地の良さ”へとつながる基本性能が大幅にアップ。また、プリウス初の4輪駆動(電動式)も設定された。各種グレードを用意しているが、より燃費性能を追求した「E」グレードで40.8km/ℓ(JC08モード燃費)の低燃費を実現している。

トヨタ プリウス

車両本体価格:2,926,800円
(A“ツーリングセレクション” 2WD、税込)
*北海道地区および沖縄地区は価格が異なります
全長×全幅×全高(mm):4,540×1,760×1,470
車両重量:1,360kg 定員:5人
エンジン:水冷直列4気筒DOHC 総排気量:1,797cc
最高出力:72kW(98ps)/5,200rpm
最大トルク:142Nm(14.5kgm)/3,600rpm
JC08モード燃費:37.2km/ℓ 駆動方式:FF

SUZUKI ALTO WORKS
スズキ アルトワークス

アルトにワークスが復活 待望のMTモデル登場

 消費税と軽自動車税の増税のあおりを受け、一時の勢いが鈍っている軽自動車。増税前の駆け込み需要反動が一段落すれば販売もある程度は回復するだろうが、そうはいっても売れれば売れるほど増税議論が持ちあがるのが軽自動車の悩みである。

 そこのところをいちばんよくわかっているのがスズキの鈴木 修会長。スズキにはホンダS660やダイハツ・コペンに対抗するスポーツカー案もあったが、会長が「うちはスポーツカーには手を出さない!」と突っぱねたという。新型アルトが経済性を徹底的に追求してきたのも「軽自動車は庶民の足であるべき」という氏の考えがベースにある。浮かれたことばかりしていると再増税の口実にされかねない。経済性という軽自動車の本質を守ることが軽自動車を守り、会社を守り、ひいては庶民の足を守ることにつながるのだ…この考えに僕は100%賛同する。

 とはいえ、クルマは経済性だけは語り尽くせない商品だ。軽自動車という枠のなかで、走る歓びを求める人にどう応えるのか。その回答がアルトに高性能エンジンを搭載したワークスだ。特徴は、以前から設定していたターボRSよりさらにスポーティーさを重視したセッティングとやんちゃなエクステリアデザイン。待望のMTを用意したのも要注目だ。レカロ製シートを標準装備した関係で価格は高くなったが、それでも151万円に収まったのはアルトをベースにしたおかげ。S660より160kg軽い670kgという驚異的な軽量ボディは、走りと燃費を高い次元で両立している。

 試乗したのは5速MTモデルだったが、カチカチと小気味よく決まるシフトフィーリングは最高! 回せば回すほど刺激が増すエンジン特性や、意のままに操れるハンドリングも素晴らしい。若い人はもちろん、クルマ好き、運転好きのセカンドカーとしてもオススメしたい。

1987年に発売され、軽自動車のスポーツモデルとしてその名を轟かせたアルト ワークス。生産終了となっていたが、昨年3月のアルト ターボRS発売でマニュアル車を望む声が上がり、伝統の名前が約15年ぶりに復活することになった。新しく専用開発したショートストロークの5速MTのほか、よりダイレクトな走りを実現した専用チューニングの5速AGSを設定。最大トルクは、98NmのRSに対し、100Nmへとアップした。

スズキ アルトワークス

車両本体価格:1,509,840円(5MT/2WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,500
車両重量: 670kg 定員:4人
エンジン:水冷4サイクル直列3気筒インタークーラーターボ
総排気量:658cc 最高出力:47kW(64ps)/6,000rpm
最大トルク:100Nm(10.2kgm)/3,000rpm
JC08モード燃費:23.0km/ℓ 駆動方式:2WD


LEXUS RX
レクサス RX

“RXを超えるRX”を目指したプレミアムSUVのパイオニア

 ’98年の初代RX(日本名ハリアー)は、乗用車ベースのプレミアムSUVというフロンティアを開拓したパイオニアだ。初代RXの画期的なコンセプトに触発され、世界の名だたるプレミアムブランドがSUVを登場させたのはご存じの通り。クルマに限らず、誰かがヒット商品をつくると、たちまちフォロワーが登場するのは世の常。だからこそ僕は心のどこかに「元祖」をリスペクトする気持ちを残しておきたいと思っている。

 とはいえ、先代RXは走行性能面でドイツ勢を中心とするライバルたちに遅れをとっていた。いくらパイオニアとはいえ、この状態を放置していたらいずれ人気を失いかねない。そんな危機感をレクサスは持っていたのだろう。4代目となる新RXの開発テーマを「RXでありながらRXを超える」としてきた。具体的にいえば、RXの持ち味である優れた快適性と環境性能を保ちつつ、ライバルに負けない走りを身につけることに開発の主眼が置かれたわけだ。

 事実、新型RXでワインディングロードを速いペースで走ると、ステアリングからの確かな手応え、高い接地感、優れたライントレース性、コーナリングスピードの向上など、さまざまな部分から進化が伝わってくる。ポルシェのマカンやカイエンほどスポーティーではないけれど、メルセデス・ベンツGLEやBMW・X5が相手なら互角に戦える走りを手に入れたと言っていい。

 内外装の仕上げも格段によくなった。柔らかな表情を醸し出す面の造形、スピード感のあるルーフライン、丁寧に作り込まれたディテールの積み重ねといった要素が、RXらしい優しさと上品さをもたらしている。弟分のNXが登場したことで上級移行できたこともプレミアム性向上を後押ししている理由だ。

 パワートレーンは2ℓ直4ターボと3.5ℓV6ハイブリッドの2種類。やや値段ははるが僕ならハイブリッドを選ぶ。

丸みのあった先代に比べ、迫力あるスピンドルグリルを中心に、力強さとシャープさを感じさせるデザインへと変貌、同時に大人の色気も表現した。カラーは全10色。直噴2.0リッターターボエンジンを搭載したエントリーモデルであるRX200tも新たに設定された。価格は495万円~。4つの予防安全パッケージ「レクサス・セーフティ・システム+」は全車標準装備。

レクサス RX

車両本体価格:7,025,000円(RX450h“version L”/2WD、税込)
*北海道地区は価格が異なります
全長×全幅×全高(mm):4,890×1,895×1,710
車両重量:2,070kg 定員:5人
エンジン:V型6気筒DOHC
総排気量:3,456cc
最高出力:193kW(262ps)/6,000rpm
最大トルク:335Nm(34.2kgm)/4,600rpm
【フロントモーター】
最高出力:123kW(167ps)
最大トルク:335Nm(34.2kgm)
JC08モード燃費:18.8km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

MERCEDES BENZ AMG GT S
メルセデス・ベンツ AMG GT S

ポルシェ911の好敵手がスポーツカー市場に本格参入

 メルセデスAMG GT Sが積む4ℓV8ターボのパワースペックは510ps/650Nm。ひと昔前ならレーシングカーかスーパーカーにしか許されなかったパワースペックだ。最近のドイツを中心とした過激なパワー競争は、それを当たり前のようにセダンやステーションワゴンに適用しているが、GT Sは軽い。E63AMGは2トン近いし、C63AMGでも1.8トン近く。それに対しGT Sのウェイトは1,670。軽量高剛性のアルミスペースフレームの恩恵だ。加えてトランスアクスル方式やマグネシウム製フロントセクションを採用することで、47:53というFRとしては異例の前後重量配分を実現。エンジンをドライサンプ式として重心高も極限まで下げている。

 これらが目的とするのは、言うまでもなく一級品の運動性能の実現。実際、GT Sの走りは素晴らしく刺激的だ。低回転域の腹に響くようなサウンドが、回していくにつれハイピッチになり、最終的には「咆哮」へと変化していく様はゾクゾクするほどドラマティックだし、凄まじいばかりの加速Gは、身体をシートに押しつけるだけでは足りず、眼球がめり込む感触すら伝えてくる。もちろん、強烈な動力性能を受け止めるシャシーも非凡な能力の持ち主であり、サーキットなど、それが許される状況になれば、強大なタイヤグリップを使い切るようなドライビングにも躊躇なくチャレンジできる。

 それでいて、優れた日常性を持っているのがこのクルマの魅力だ。AMGドライブセレクトと呼ばれる可変システムでコンフォートモードを選択すれば乗り心地は至極快適だし、リアには実用的な広さのトランクルームがしっかりと備わっている。2人乗りでも問題なしと考えるなら、日常の足として十分に活躍してくれるだろう。価格は1,840万円。ポルシェ911の好敵手として要注目のニューモデルだ。

メルセデス・ベンツブランド傘下で、究極のハイパフォーマンスを追求するブランドとして設立されたメルセデスAMG。そのメルセデスAMG社による完全自社開発のスポーツカーとしてデビューしたAMG GT/GT Sは、モータースポーツで培った最先端の独自技術が惜しげもなく投入されている。チューニングの異なる2種類のV8ターボエンジンが設定されており、GTは452ps/600Nm(1,580万円/税込)、GT Sはその高性能モデル。

メルセデス・ベンツ AMG GT S

車両本体価格:18,400,000円(AMG GT S、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,550×1,940×1,290
車両重量:1,670kg 定員:2人
エンジン:DOHC V型8気筒ツインターボチャージャー付
総排気量:3,982cc 最高出力:375kW(510ps)/6,250rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/1,750-4,750rpm
JC08モード燃費:9.6km/ℓ 駆動方式:後輪駆動

文・岡崎五朗

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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