アルファ ロメオの魅力を聞かれたなら、僕はまずその加速感を挙げるだろう。
免許を取ってバイクやクルマに乗り始めた時から今日に至るまで、理想の加速感を追求していると言っても言い過ぎではない。そのためにエンジンやキャブや足回りを改造したり、マフラーを作ったりしているうちに、今はそれが仕事にもなっている。
加速感とは、絶対的な加速性能ではないというのが持論。エンジンや駆動系の音や振動はもちろん、加速している時の車体の挙動、エンジン回転の上がり方や下がり方、シフトフィーリングやその繋がり方、それら加速時の全ての所作が合わさり乗り手に伝わってくるのが、加速感である。
アルファ ロメオはその名前やスタイル、メーカーのヒストリー等に魅せられて、免許を取ったら絶対ジュリアクーペに乗りたいと真剣に考えていた。しかし実際に大学生になって免許を取ると、学生がバイト代で買えるクルマでないことを痛感する。そして紆余曲折、やっと手に入れたのはビール1ケースと交換したボロボロのB10サニー。この初代サニー、バンパーを外して車高を下げると、なんとなくジュリアに似てなくもない。その後、ミニ1000やフィアットリトモアバルト、シトロエンBXやルノーサンク、ボルボのP1800やBMWの3.0CS等なんだかんだ20台以上、当時底値だけど面白そうなクルマを乗り継ぎ、いよいよアルファ ロメオを手に入れたのは30歳を超えたころだ。
修理にお金がかかって維持できない、という友人からお友達価格で譲ってもらったのは、ジュリアクーペの最終型である2000GTV。床に開いた穴からは地面が見え、ミッションのシンクロもだいぶヘタっていたけれど、その加速感は長年想像してきたまさにアルファ ロメオのそれだった。オールアルミの2バルブDOHCエンジンとウェーバーキャブの奏でるサウンド、ストロークは長いがなぜか絶妙なシフトフィーリング、比較的大きなロールを伴うコーナリング。その全てに一気に魅了されたのだった。
その後何台かのジュリアシリーズを乗り継ぎ、現在はこの1976年のアルフェッタGTと、1973年式のジュリアスーパーが我が家に棲み着いている。アルフェッタはジュリア系に比べると不人気でトラブルも多い印象があったけれど、現代の技術でメンテナンスし、ある程度のチューニングを施すと、素晴らしいスポーツカーに変身した。これは主にサーキットやヒルクライムでのスポーツ走行に使用している。制限速度の無いクローズドコースでアルファの加速感を全開で堪能する瞬間は、まさに至福。これからもいろいろなクルマに乗るだろうけれど、理想の加速感を与えてくれるアルファツインカムだけはずっと手放さないだろう。
’73年に登場したジュリアの後継モデル。ジュリアから引き継いだDOHCオールアルミエンジンに、ミッションをデフと一体としたトランスアクスルを組み合わせ、理想の重量配分を実現するが、その複雑な構造から完調にはスキルを要し、またこの頃生産拠点を移したことによる低品質も相まって不人気なアルファ ロメオの代名詞となった。現在はパーツ供給も各ショップのノウハウも蓄積され、当時の理想的なエンジニアリングを堪能できる環境が整っている。
Shiro Nakajima