FEATURE1 2190万円のナンバー付モトGPマシン~HONDA RC213V-S

 今年、ホンダは衝撃的なバイクを世にはなった。2輪ロードレースの最高峰モトGPを走るワークスレーサーの「レプリカ」だ。

 しかも似てるとか、テクノロジーが流用されているなどといったスタンスではない。限りなく「ホンモノ」に近いストリートバイクを目標に造りあげられていた。そのプライスも2,190万円(税込)。これもホンキの表れか、2輪界の常識を突き抜けた高価格だ。

 誰がどう考えても。このRC213V-Sが速いバイクなのは解るだろう。なみなみならぬ運動性能を持っていて、最高峰のハンドリングを持っていることも。それでこのプライス、誰でも味わえるものではない。しかもこのバイクは限定生産。オーナーになれば、孤高のバイクに乗るというプレミアム感も強烈だ。

 しかし、乗って分かったことがある。それは、そんなことのためだけにホンダはこのバイクを造ったのでは無いということだ。たぶん、ホンダは企んだ……。

 たしかにこのバイク、走っての性能は尋常でない。試乗したのは160馬力の欧州仕様。今や、1,000㏄のスーパースポーツモデルなら多くが200馬力を越えて発揮する時代だ。なぁーんだ…と頼りなさをイメージしても仕方ない。だがそのパワーをRCは無駄無く、確実に、効率よく使いこなさせる。乗り手が加速したいと思ってスロットルを開ければどんな状況でも加速させてしまう。気がつくと12,000回転のレッドゾーン近くを回し続けてるんだが緊張感はまるでない。何しろエンジンの応答性から、リヤタイヤが空転しそうになったときのトルクコントロール、スロットルを閉じた時のエンジンブレーキの強弱まで、およそ考えられる電脳式ライディングアシストは全て付いている。これらが無駄無く、160馬力を味わい尽くさせてくれるのだ。だから、驚くほど速い。そして、この扱いやすさは215馬力を発揮するスポーツキット装着車に乗ってもまったく変らない。手応えの無い、従順なパワーだが、さらに驚くほど速い。

 ハンドリングもそうだ。軽快で、かつての2ストクォーターのSSにでも乗ってるような手応え。そしてそんなクイックさで曲がる。だが軽薄な身のこなしはしない。例えようがなく素直なのだ。足回りがすばらしいのは最高級のレース用オーリンズが付いてるので分かるだろう。あり得ないような従順さをもってサーキットを走り回った。

 だが、ひと言。200万円のSSの10倍の凄さか? と問われればそこまでではない。しかしこれだけのコストを掛けないと造れない制御群にサポートされているのだろう。その質の高さ、バランスの良さはRCでしか味わえない。

 ホンダの企みは、このバイクを売ることではない。この感激を異口同音に試乗したジャーナリストたちに語らせることだ。ホンダが考えるスポーツバイク哲学、技術力を知らしめ、この技術がフィードバックされるであろう今後のホンダのバイクたちに期待させることなのである。

文・宮崎敬一郎

RC213V-S
車両本体価格:21,900,000円(税込) 
総排気量:999cc 最高出力:158kW(215ps)/13,000rpm 以上
最大トルク:118Nm(12.1kgm)/10,500rpm 以上
※スペックはSPORTS KIT装着仕様車。
 SPORTS KITを取り付けるとクローズドコース専用となる。

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