F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 PLUS vol.07 鈴鹿に帰ってきたホンダ

 鈴鹿サーキットで開催された昨年のF1日本GPで、ホンダは2015年に投入するパワーユニットの最新映像を先行公開した。

 F1プロジェクト総責任者の新井康久氏は、翌年からマクラーレンに供給するF1パワーユニットの開発状況について、「これからが佳境。開幕までの時間が限られているので当然焦りはあるが、スケジュールどおり」とコメントした。

 それから1年後。ホンダは正式にF1の一員となって鈴鹿に帰ってきた。2014年のイベント期間中の観客数は15万人だったが、2015年は16万5000人だった。小林可夢偉はF1からいなくなったが、ホンダが帰ってきた。その効果だろうか。

 1年前にコンピューターグラフィックスの映像を映し出していたホンダのブースでは、実戦に投入されたパワーユニットが展示されていた。ルールを統括・管理するFIAの封印がそのまま残っていることが、展示用ではなく実物であることを雄弁に物語っている。決勝レース日の午前中、最新パワーユニットに加え歴代のF1エンジンが展示されていたそのブースには、30分待ちの行列ができていた。

 1年前と同じ場所で大勢のメディアに囲まれたF1プロジェクト総責任者は、「ホンダファンだけでなく、日本人のF1ファンがこれだけ集まり、声援を背に受けながらレースできたのは本当に幸せ」だったと語り、「いろいろ努力していることについて後押しになります。来年こそは、という気持ちが、レースが終わった後に湧いてきました」と感慨深げに語った。

 マクラーレン・ホンダをドライブしたジェンソン・バトンは14番手からスタートし、52周を走って16位でフィニッシュした。12番手からスタートしたフェルナンド・アロンソはレース序盤、ポイント圏内の9番手を走行する場面もあったが順位を落とし、12位でレースを終えた。

 6周目、若手ドライバーが運転するザウバー・フェラーリにあっけなく追い抜かれると、アロンソは「こんなふうに追い抜かれるなんてみっともない」と、無線を通じてチームに訴えかけた。26周目、今度は17歳の新人、マックス・フェルスタッペンがドライブするトロロッソ・ルノーにあっさりかわされて順位を落とした。するとアロンソは、「これではGP2だ(F1より下のカテゴリ)。GP2のエンジンみたいだ。あぁぁ!」と、パワーユニットの力不足を悲痛な叫びとともに無線に乗せた。よほど悔しかったのだろう。

 アロンソの声は当然、ホンダF1プロジェクト総責任者にも届いた。「(ホンダに対する)激励だと思っています。開発のペースを一気に上げるのは難しいが、それをやらないと差は縮まらないので、最大限努力します」と、新井氏は答えた。

 悔しさのバネは目一杯縮まっていることだろう。ホンダの反発に期待したい。

「サーキットによって得意不得意があるのは、(パワーユニットとしての)完成度の低さだと思っている。まずは不得意を払拭しないと来年に向けても厳しい戦いになる。だから、そこはきっちり開発していく」と、ホンダのF1プロジェクト総責任者を務める新井康久氏はコメント。ホンダはF1日本GP開幕週に東京・青山のHondaウエルカムプラザ青山でイベントを開催。F1日本GP開催中の鈴鹿サーキットでは、Hondaブースをふたりのドライバーが訪れ、ファンとの交流を深めた。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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