岡崎五朗のクルマでいきたい vol.74 おごる駐車監視員

 つい先日、東京の湾岸警察にほど近い場所でなんとも納得のいかないシーンに遭遇した。駐車監視員が乗った白い軽自動車が自ら違法駐車をしながら駐車違反の取り締りをしていたのだ。

 現場は交通量の少ない広い道路。停めていてもとくに危険はなく、パーキングメーターを設置してもいいような場所だ。彼らの狙いは、コンビニやファーストフード店に立ち寄るクルマの取り締まり。本来なら渋滞した幹線道路での取り締まりを優先すべきだが、百歩譲って違反は違反なので仕方なしとしよう。しかし、駐車監視員が違法駐車をしながら堂々と取り締まるのは如何なものか? これじゃあ泥棒が泥棒を捕まえるようなものである。

 あまりにも理不尽なので、声をかけてみた。穏やかに、紳士的に「おかしくないですか?」と。けれども彼らに罪の意識はまったくない様子。それどころか正義の味方気取りで「われわれは警察から許可をもらってますから!」と開き直ってみせたのだった。

 たしかにフロントウィンドウには「駐車禁止除外指定車」のステッカーが貼ってあった。しかし緊急出動中のパトカーや救急車、消防車ならともかく、駐車監視員の仕事に緊急性などない。結局のところ、歩きや自転車だと大変だし面倒だからクルマを使っているだけのはずである。

 彼らはきっと、ようやくとれた昼休みに牛丼屋で遅めの昼食を大急ぎでかき込む外回り営業さんの実状や、遠い駐車場にクルマを停め、手押し式のカゴで必死に荷物を運んでいる宅配便ドライバーさんたちの苦労なんて考えたこともないのだろう。もちろん違反は違反だ。しかし、自分たちは取り締まる側だから違反をしても許されるなどと思っているのなら、駐車監視員の仕事が支持されることなど永久にない。

 しかし彼らは所詮警察の小間使い。諸悪の根源は駐車禁止場外指定車のステッカーを正当な理由もなく、ただ身内だからという理由で発行している警察だ。いまに始まったことじゃないけれど、警察さん、いくらなんでも身内に甘すぎるのではないですか?


TOYOTA AURIS
トヨタ オーリス

欧州市場で闘うための1.2ℓ直噴ターボ搭載

 トヨタ・オーリスがマイナーチェンジを受け、1.2ℓダウンサイジングターボエンジンを搭載してきた。ハイブリッドをパワートレーン戦略の中核に据えているトヨタは、EVやディーゼル、ダウンサイジングターボには消極的だ。ではなぜいまダウンサイジングターボなのか。これは、オーリスの主戦場がヨーロッパであることが大きく関係している。言い換えれば、ダウンサイジングターボなしではもはや欧州では戦えないという判断をトヨタが下したということだ。

 オーリスは、ゴルフを中心とする欧州Cセグメント車に対抗すべく開発された。ご存じのようにこのセグメントの競争は厳しく、生半可なクルマ作りでは勝機は掴めない。高速走行時の安定性、静粛性、ハンドリング、動力性能、燃費、内外装の質感など、トータルで高い性能を達成する必要がある。コストコンシャスなクルマ作りが得意なトヨタが、あえてリアにダブルウィッシュボーンサスペンションを採用しているのも、価格より質を重視した結果だ。そんなわけで、オーリスの走りはなかなかよくできている。とくに、「しっかり感」とか「しなやかさ」といった、スペックには現れない部分の性能は、価格帯が被るプリウスをはるかに凌ぐ。

 新開発の1.2ℓターボのパワースペックは116ps/185Nm。回せば回すほど元気になるタイプではなく、普段よく使う低中回転域のトルクを重視している。スポーツグレードと捉えると面白味はないが、普段使いでの扱いやすさは上々。高速道路を含め、気持ちのいいドライブができる。ただし問題は259万円という価格。あと7万円出せばゴルフが買えてしまう。マイナーチェンジで内外装や足回りに磨きをかけたとはいえ、正直なところオーリスはほぼすべての領域でいまだゴルフには勝てていない。1.5ℓモデル(179~228万円)の価格帯にもこのエンジンを搭載すれば商品力はより高まるだろう。

オーリスは、欧州Cセグメントのハッチバック市場で、販売台数4位にランクされる実力を持つ。今回設定された1.2ℓダウンサイジングターボエンジン搭載車(120T)は最上級グレードで、1.8ℓの走りを1.5ℓクラスの燃費で実現したという。また内外装ともに上質感を高め、欧州からの輸入車に対抗するイメージを打ち出している。

トヨタ オーリス

車両本体価格:2,590,037円(120T/2WD、税込)
*北海道、沖縄地区を除く
全長×全幅×全高(㎜):4,330×1,760×1,480
車両重量:1,300kg 定員:5人
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ
総排気量:1,196cc
最高出力:85kW(116ps)/5,200-5,600rpm
最大トルク:185Nm(18.9kgm)/1,500-4,000rpm
JC08モード燃費:19.4㎞/ℓ 駆動方式:前輪駆動

TOYOTA SIENTA
トヨタ シエンタ

12年ぶりの新型は軽自動車への刺客となるか

 シエンタが12年ぶりにフルモデルチェンジした。これほどのロングライフになったのには事情がある。トヨタとしては2009年登場のパッソセッテへとバトンタッチするつもりだったが、スライドドアを望む声が強く販売を継続。結果的に異例の長寿モデルとなった。とはいえ、2008年にホンダがフリードを出してからというもの、シエンタにハードウェア上の優位性はほとんどなかった。パッケージングでも走りでも完敗。それでも売れ続けていたのは、トヨタの強力な販売力に負うところが大きい。

 というわけで、新型シエンタのベンチマークは当然フリードだ。実際、大きく差を付けられていた室内スペースにおいて、シエンタはフリードに追いつき、部分的には追い越した。とくに3列目シートの快適性はシエンタが上をいく。使い方によって一長一短があるものの、サードシートの収納方法もシエンタのほうがスマートだし、ハイブリッドモデルの燃費や走りでもシエンタに軍配があがる。

 というわけで、シエンタは宿敵フリードに対しようやく優位にたつことができた。しかしトヨタが狙っているのはフリードだけじゃない。最近はやや落ち着いてきたものの、依然として市場の40%近いシェアをもつ軽自動車への刺客として強い期待をかけていると僕は考えている。軽自動車は法律上定員は4人まで。逆立ちしたって3列シートは真似ができない。多人数乗車を強みに、軽自動車に流れているユーザーをしっかりとつかまえることも、新型シエンタに与えられた大きな使命なのである。

 個性的な外観は好き嫌いがはっきり分かれるだろう。僕はシンプルで道具っぽいフリードのほうが好みだが、「カワイイ」というキーワードでクルマ選びをする人の目に、新型シエンタのデザインはきっと魅力的に映ると思う。そんな味付けも、軽自動車を意識した結果なのかもしれない。

デザインのキーワードは“Active&Fun”。いい意味でミニバンらしくないスポーティな外観は、トレッキングシューズにイメージを得たという。後席にいくほど高く見晴らしのよいレイアウト、低床フラットフロアやスライドドアの開口幅拡大などによる優れた乗降性など、誰もが過ごしやすい空間を意識した。生活シーンに合わせ、6人乗りと7人乗りの2タイプから選べる。

トヨタ シエンタ

車両本体価格:2,329,855円(HYBRID G・7人乗り/2WD、税込)
*北海道、沖縄地区を除く
全長×全幅×全高(㎜):4,235×1,695×1,675
車両重量:1,380kg 定員:7人
エンジン:直列4気筒DOHC 総排気量:1,496cc
【エンジン】最高出力:54kW(74ps)/4,800rpm
最大トルク:111Nm(11.3kgm)/3,600-4,400rpm
【モーター】最高出力:45kW(61ps) 最大トルク:169Nm(17.2kgm)
JC08モード燃費:27.2㎞/ℓ 駆動方式:前輪駆動

MITSUBISHI OUTLANDER PHEV
三菱 アウトランダーPHEV

ラグジュアリーを求めた 今、最も魅力的なPHEV車

 日本のマーケットはいまハイブリッドカーが席巻しているが、欧州勢を中心に積極的な技術開発が繰り広げられているのがプラグインハイブリッドだ。エンジンとモーターとバッテリーを搭載している点はハイブリッドと同じだが、より大容量のバッテリーと充電機能を備え、数十キロならEVとして使えるのが特徴。また、バッテリーを使い切っても、ガソリンさえ入っていれば走行を続けられる。ハイブリッドとEVのいいとこ取りをしたシステムと言ってもいいだろう。

 ただし、ハイブリッドと比べてコストが嵩むのが泣き所。そこをどう解決していくか。また、プラグインハイブリッドならではの魅力をどう演出するか。この2点が今後プラグインハイブリッドの普及を左右することになるだろう。そんな観点から眺めたとき、アウトランダーPHEVは、いまもっとも魅力的なプラグインハイブリッド車だと断言できる。満充電時のEV走行距離は60.2㎞と十分で、日常ユースならほぼエンジンをかける必要はない。強力でスムーズなモーターによる加速は病みつきになるほどの気持ちよさだ。高速巡航時などエンジン効率の高い領域や、フル加速時にはあえてエンジンを始動。さらに、前後二つのモーターを個別制御することにより高度な前後トルク配分を行い、雪路など滑りやすい状況での安定した走行性能も実現している。試乗すれば、大きなSUVがモーターだけで気持ちよく走れること、購入すれば、ランニングコストの安さに驚くこと請け合い。この価格でこれほど高度なシステムを実現したミツビシの技術力は本当にスゴいと思う。
 今回のマイナーチェンジでは、不評だったフロント周りのデザインを一新し、ダイナミックな面構えを獲得。加えてインテリアの大幅な質感向上や、25㎏にも及ぶ遮音材の追加による静粛性の向上を実施してきた。アウトランダーPHEVはもっともっと注目されるべき非常に魅力的な超ハイテクカーである。

2013年に発売されたアウトランダーPHEVは、現在世界で最も売れているプラグインハイブリッド車。購入者の約3割が欧州高級車からの乗り換えで、販売全体の7割は欧州が占めているという。今回発売2年半でマイチェンに踏み切ったのは、デザイン戦略によるところが大きい。価格は3,596,400円(税込)から。

三菱 アウトランダーPHEV

車両本体価格:4,590,000円(G Premium Package、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,695×1,800×1,710
車両重量:1,880kg 定員:5人
エンジン:DOHC 16バルブ・4気筒 総排気量:1,998cc
【エンジン】最高出力:87kW(118ps)/4,500rpm
最大トルク:186Nm(19.0kgm)/4,500rpm
【モーター】最高出力:前/60kW(82ps)、後/60kW(82ps)
最大トルク:前/137Nm(14.0kgm)、後/195Nm(19.9kgm)
ハイブリッド燃料消費率(JC08モード):20.0㎞/ℓ 駆動方式:4WD

AUDI A1
アウディ A1

250万円を切るアウディのクラスを超えたプレミアム感

 アウディのエントリーモデルであるA1に、とても魅力的なグレードが加わった。3気筒ターボエンジンを積む1.0TFSIだ。ボディタイプは3ドアと5ドアの2種類で、3ドアの価格は249万円。誰しもが憧れを抱くプレミアムブランドのクルマが250万円を切ったのは大きなニュースである。

 となると気になるのが、安かろう悪かろうではないのか? という点だが、答えはノー。この価格でもしっかりとアウディらしさを味わえる。装備面ではエアコンがマニュアル式になるなど簡素な面もあるけれど、アウディの魅力である内外装の高い質感に手抜きを感じる部分は皆無。厚くて滑らかな塗装、ボディパネル間のすき間の小ささ、均一性、レザーステアリングのしっとりとした触感、スイッチ類の気持ちのいい操作感、エアコン吹き出し口の滑らかな動き、樹脂パーツの質感、メーターパネルの見栄え、シートの座り心地、ラゲッジスペース内の上質な仕上げなどなど、各部にクラスを超えたプレミアム感が漂っている。ボディは小さくても、アウディというブランドを貶めるような雑な仕事はできない…という開発陣の心意気がビンビン伝わってくる仕上がりだ。

 走りにも同じことが言える。バランサーシャフトをもつ1ℓ3気筒ターボは、1ℓとは思えない厚みのあるトルクと、3気筒とは思えないスムーズさをもち、1,120㎏のボディを軽快に走らせる。ガッチリしたボディと60偏平の15インチタイヤが生みだす乗り心地が、40偏平の17インチタイヤを履く上位グレードより明らかにマイルドなのも気に入った。

 1.0TFSIに乗って思ったのは、〝素〟の美味しさ。本当に美味しい蕎麦は天ぷらを付けなくても美味しい。それと同じように、このエントリーグレードはA1というよくできたプレミアムコンパクトの美味しさを100%味わわせてくれる。オプションは最小限にして素の状態で乗ることをオススメしたい。

新たに設定された1.0TFSIは、従来の最廉価モデルより24万円も安いが、スタイリングは他のA1ともちろん変わらない。搭載されているアウディ史上初の3気筒エンジンは、最高出力95PS、最大トルク160Nmを発揮し、JC08モード燃費はアウディとして過去最高の22.9㎞/ℓを達成。高出力と優れた燃費性能を兼ね備えているのも魅力だ。

アウディ A1

車両本体価格:2,490,000円(1.0 TFSI/FF、税込)
全長×全幅×全高(㎜):3,985×1,740×1,425
車両重量:1,120kg 定員:4人
エンジン:直列3気筒DOHCインタールーラー付ターボチャージャー総排気量:999cc
最高出力:70kW(95ps)/5,000-5,500rpm
最大トルク:160Nm(16.3kgm)/1,500-3,500rpm
駆動方式:前輪駆動

文・岡崎五朗

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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