岡崎五朗のクルマでいきたい vol.73 スマホが変える車載器の未来

 先日、海外取材でドイツとオランダを1200㎞ほど走ったのだが、そのとき大いに役立ったのがiPhoneと車載ナビ/オーディオを接続して使うアップルの「CarPlay」だった。

 自分のiPhoneを純正ケーブルで接続すると、電話、ミュージック、メッセージなどお馴染みのアイコンがナビ画面に表示され、お気に入りの音楽を聴いたりナビを使える。なかでもいいなと思ったのがナビゲーション機能。試乗車にはオリジナルのナビ機能も付いていたが、CarPlayのナビを使えば地名や施設名が日本語で表示され、なおかつ目的地の検索も日本語でOK。音声ルート案内も日本語が流れる。まさに海外でスマホを使うのと同じ感覚で扱えるのである。

 スマホの性能向上や地図&ナビゲーションアプリの進化により、車載のナビゲーションシステムはもう要らないと考える人が増えている。たしかに、一部のよくできたものを除けば、地図の見やすさにしろスクロールや縮小拡大の反応にしろ、スマホのほうがずっと優れている。スマホの地図データは基本的にクラウド側にある(データの一部を端末にキャッシュする技術もある)から、ネットワーク圏外では使えないが、最近は整備が進み、圏外の場所もどんどん減ってきているし、なんといってもスマホさえもっていればコストがかからない。そう考えると、車載ナビがどんどん劣勢になっていくのは間違いないだろう。


HONDA STEPWAGON
ホンダ ステップワゴン

激戦区に放った5代目の完成度

 ’96年の初代ステップワゴンは、ワンボックスカー(当時はそう呼ばれていた)の在り方をガラリと変えたエポックメーカーだった。それまでの主流は、エンジンを室内側の床下に搭載し後輪を駆動するキャブオーバー型。そこに、シビックのプラットフォームを利用したFFレイアウトで戦いを挑んだのが初代ステップワゴンだったのだ。FF化により床はフラットになり全席ウォークスルーを実現。エンジンを室内側から追放することで振動や騒音も大幅に改善された。その後、トヨタや日産がFF化に追随したのはご存じの通りだ。

 その結果、このジャンルではセレナやノア/ヴォクシーといったライバルがシェアを増し、ステップワゴンの存在感は次第に薄まっていった。そんななか、元祖の意地をかけて開発してきたのが5代目となる新型だ。いちばんの売りはわくわくゲートと呼ばれるバックドア。大きなバックドアを開けるためには後方にかなりのスペースが必要だが、横開きの小さなドアを使えば気軽に開け閉め可能。それでいて、大きな荷物の積み卸しをする際には全体を縦開きにできる。なかなか面白いアイディアだ。

 しかし、それ以上に感心したのがクルマとしての完成度の高さだ。内外装のデザイン、質感、静粛性、乗り味、走り味ともに頭一つ抜け出してきたなと思った。なかでも注目したいのが1.5ℓのダウンサイジングターボエンジンだ。このエンジンの最大の魅力は普段よく使う低中回転域で従来の2ℓエンジンを上回るトルクを発揮すること。体感的には2.5ℓ級のエンジンを載せたような余裕を感じる。さすがにノア/ヴォクシーのハイブリッド(日産セレナのハイブリッドは簡易型)と比べると燃費は落ちるが、価格差を考えれば大きな弱点にはならないだろう。それより、ハイブリッド、非ハイブリッドを含め、クラストップの走りの爽快感を備えていることを僕は高く評価する。

左右非対称のリアデザインが特徴の『わくわくゲート』は、通常通り縦に開けるのはもちろん、ドアの左側3分の2を横方向にも開口できる(上写真)。荷物の出し入れのほか、乗り降りするためのサブドアとしての使用もイメージされている。設定はB/G/G・Xの3グレードで、Bを除くグレードで標準装備される。また、最新の安全装備「ホンダセンシング」は全グレードでオプション設定が可能。スポーティー仕様の「スパーダ」も同時発売された。

ホンダ ステップワゴン

車両本体価格:2,480,000円(G/FF、税込)
全長× 全幅× 全高(mm):4,690×1,695×1,840
車両重量:1,650kg 定員:7人
エンジン:水冷直列4 気筒横置 総排気量:1,496cc
最高出力:110kW(150ps)/5,500rpm
最大トルク:203Nm(20.7kgm)/1,600-5,000rpm
JC08 モード燃費:17.0km /ℓ 駆動方式:前輪駆動

VOLKSWAGEN GOLF TOURAN
フォルクスワーゲン ゴルフ トゥーラン

12年ぶりの“フルモデルチェンジ”

 ゴルフベースの3列シートミニバン、トゥーランが初のフルモデルチェンジを受けた。現行モデルが登場したのは2003年のこと。途中で内外装の大幅変更やエンジンの換装などを行ってきたため案外古臭くは見えないけれど、実は12年も前に登場したモデルなのである。

 新型をつくるにあたって開発者は「フォルクスワーゲン=人々のクルマ」という社名の意味を改めて考えたそうだ。ユーザーにとって本当に大切な性能とはなにか。とりわけメインターゲットであるヤングファミリーがクルマに何を求めるのか。それを突き詰め、具現化したのが新型トゥーランである。

 全長は130㎜、全幅は41㎜拡大したが、同時に室内スペースと使い勝手も大幅に向上している。113㎜伸びたホイールベースは3列目の膝元スペースの拡大に貢献。脱着式から可倒式になった2列目シートは手軽な操作でフルフラットな空間を作り出す。743~1,980ℓというラゲッジスペースはクラストップであり、助手席の背もたれを前方に倒せば最長で2.5mの長尺ものも収納できる。安全装備も乗員を守る最新のものを積極的に採用。また、軽量化や新エンジンにより燃費も最大で19%向上した。荷物が多くなりがち、かつ、なにかとものいりな子育て層にとってはどれも嬉しい改良である。

 つまり、新型は全方位で使い勝手と経済性をよくしてきた。となると、わざわざ社名の意味を考えるまでもなかったのでは? という疑問も生じる。しかし、新型トゥーランの特徴はもうひとつある。内外装と走行性能の圧倒的な質だ。ボディの仕上げ、内装の精密感、乗り心地、静粛性…そういった部分でトゥーランは非凡な性能を見せつける。そう、リーズナブルな価格を保ったまま、コンパクトなミニバンにも高級車並みの質を与えることがVWの使命だと彼らは考えたのである。日本導入は来年早々の予定だ。

日本では「ゴルフ・トゥーラン」の名で発売されているトゥーランの新型は、VWの新世代モジュラー車台であるMQBをベースに開発された。エンジンはガソリン(TSI)とディーゼルエンジン(TDI)を各3種類、計6タイプを設定予定。車載システムのディスプレイ上で、スマートフォンの機能やコンテンツをタッチ操作できる「MirrorLink」を標準装備。アップルの「CarPlay」、グーグルの「Android Auto」にも対応している。

Touran 1.4 TSI DSG(日本導入予定モデル)

*スペックはドイツ仕様
全長× 全幅× 全高(mm):4,527×1,829×1,659
車両重量:1,478kg
エンジン:1.4 リッター4気筒直噴ガソリンターボエンジン
最高出力:110kW(150ps)/5,000-6,000rpm 
最大トルク:250Nm/1,500-3,500rpm
駆動方式:前輪駆動

VOLVO V40
ホルボ V40

主力の5モデルでディーゼル搭載

 ここでは新たに最新鋭のディーゼルエンジンを搭載してきたV40 D4を紹介するが、最大のニュースは、ボルボが「点」ではなく「面」でディーゼルエンジンを展開してきたことにある。V40に加え、V40クロスカントリー、S60、V50、XC60という主力モデルにディーゼルを全面設定。ディーゼル投入で先行したメルセデスやBMWですらここまで大胆な戦略をとっていないし、フォルクスワーゲンに至っては、ようやく重い腰を上げ来年のディーゼル導入を決めたところ。ライバルと比較すると、今回のボルボの動きがいかに積極的であるかが分かるだろう。

 この背景には2つの理由がある。ひとつは「安全」の他に、ブランドイメージの軸となる新たな要素をボルボが欲しがっていたこと。もうひとつは、軸となり得る素晴らしいハードウェアが出来上がったことだ。

 新しい2ℓ直4ディーゼルは、最大2,500気圧の噴射圧、1サイクルあたり最大9回の噴射、気筒ごとに設置した圧力センサーなど、最新のスペックを誇るもの。190psという最高出力もさることながら、それ以上に注目したいのが400Nmという4ℓエンジン並みの最大トルクだ。SUVのXC60と組み合わせてもキビキビ走るこのエンジンを小柄なV40に組み合わせているのだから遅いはずがない。街中でも高速道路でも、その走りはまさに余裕の塊。静粛性も高い。それでいて、高速道路を流れに乗って走ればリッター20㎞以上の燃費を叩きだす。さすがにゴー&ストップが多い街中ではプリウスのような燃費指向のハイブリッドに及ばないものの、それでも13-14㎞/ℓぐらいはいくのだから、ドライビングプレジャーと経済性の両立点はとんでもなく高い。燃料噴射系はデンソー、8速ATはアイシンAW社製と、日本のテクノロジーが積極的に使われているのも日本人としては嬉しい。戦略的な価格設定を含め、ボルボのディーゼルは要注目だ。

「D4」とは、ボルボが新世代パワートレーン「Drive-E」の一環として開発した、2.0リッター4気筒ターボディーゼルエンジンのこと。燃費は、XC60(SUV)を除く各車種で20.0㎞/ℓ(JC08モード燃費)以上を達成。ガソリンモデルに比べ+25万円という価格設定、クリーンディーゼル乗用車として各種税金の免税・減税対象であること、割安な燃料など、経済面でのメリットの高さでも注目される。

ホルボ V40

車両本体価格:3,490,000円(V40 D4、税込)
全長× 全幅× 全高(mm):4,370×1,800×1,440
車両重量:1,540kg 定員:5人
エンジン:インタークーラー付ターボチャージャーDOHC
水冷直列4 気筒横置き・16 バルブ 総排気量:1,968cc
最高出力:140kW(190ps)/4,250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1,750-2,500rpm
JC08 モード燃費:20.0km /ℓ 駆動方式:前輪駆動

LAMBORGHINI HURACAN LP610-4
ランボルギーニ ウラカンLP610-4

“洗練”を手に入れたガヤルドの後継車

 最近ではマクラーレンが存在感を増してきているものの、フェラーリに対抗するメーカーと言えばやはりランボルギーニだ。昨年のジュネーブショーで発表されたウラカンはその最新モデルであり、史上もっとも成功したランボルギーニである「ガヤルド」の後継モデルにあたる。スーパーカー好きであれば、「LP610-4」というネーミングを見て、これがどんなモデルであるかたちどころに理解するだろう。「LP」はエンジン縦置きミッドシップ、「610」は最高出力で、末尾の4は4WDを意味する。搭載するのは直噴とポート噴射を併用した自然吸気の5.2ℓV10。フェラーリがターボ化を進めるなか、大排気量自然吸気にこだわり続けてきたのは多くのファンを喜ばせるだろう。

 かつてのランボルギーニは荒々しさと荒削りさが同居していた。見た目もスペックもドライビングフィールもスゴいが、そこに洗練という文字は一切なかった。それがまたランボルギーニの魅力でもあったのだが、VWグループ傘下に入ってからは次第に洗練度を高め、ウラカンに至っては、フェラーリに負けないほどの質感を手に入れてきた。内外装のフィニッシュだけでなく、走りにまつわる部分も実に緻密にできていて、アクセルを踏む、変速する、ブレーキを踏む、ステアリングを回す、路面の突起を乗り越える、高速道路を直進する、といったあらゆるシーンで工業製品としての仕上がりのよさを伝えてくるのだ。こんなにカッチリできているランボルギーニに乗ったのは生まれて初めてだし、快適性も思いのほか高かった。それでいて、深くアクセルを踏み込めばたちどころに「猛牛」の血が沸き上がり、異次元の速さと刺激がアドレナリンを噴出させる。

 ウラカンは「アンチフェラーリ派が好む荒々しいスーパーカー」という従来のランボルギーニ像を破り、新たな顧客層を掴む可能性を秘めたモデルである。

ランボルギーニのアイコン的存在・ガヤルドの後継車として、ゼロから新たに開発された。デザインを一新し、従来の直線的な面で構成されていた外観は、フロントからリアまで1本の線を描いたものへと変化。インテリアは現代的なデザインやエンターテイメント性を取り入れた仕上がりとなった。絶対的なパフォーマンスと運転のしやすさ、という双方を叶えており、最高速は325㎞/h、0-100km/h加速は3.2秒のパフォーマンスを発揮する。

ランボルギーニ ウラカンLP610-4

車両本体価格:29,700,000円(税込)
全長× 全幅× 全高(mm):4,459×1,924×1,165
車両重量:1,422kg 〜 定員:2人 エンジン:5.2リッターV10エンジン
総排気量:5,200cc 最高出力:448kW(610hp)/8,250rpm
最大トルク:560Nm/6,500rpm 駆動方式:AWD

文・岡崎五朗

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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