公道レースといえば、華やかな街並みのなかを駆け巡るF1モナコGPが思い浮かぶ。
アメリカでは古くから市街地で公道レースが行われているし、2014年からは電気自動車のフォーミュラカーによるフォーミュラEが、世界各国の市街地で開催されている。
公道レースは世界では当たり前の光景だが、日本では無縁のイベントという意識が刷り込まれているようだ。しかし日本で公道レースを開催しようとする動きがなかったわけではない。’00年代中頃にはアメリカのチャンプカー(現インディカーシリーズ)を小樽で開催しようという動きがあったし、最近では沖縄でスーパーGTを開催しようとする動きもあった。熱心な活動もむなしく、どれもさまざまな壁にぶち当たって頓挫している。
公道レースを阻む最大の壁は、警察から道路使用許可を得ることだ。背景には「モータースポーツは危険」という意識が(警察に限らず)染み込んでいることが挙げられる。モータースポーツに騒音(が言い過ぎなら、大音量)は付きものであり、周辺住民の理解を得るのも乗り越えるべきハードルとして存在する。
そんな状況でレーシングカーが公道を走る出来事は画期的だったろう。’06年から東京・お台場で開催しているモータースポーツジャパンは、’07年に開催地周辺の公道でレーシングカーのパレード走行を行った。レッドブルは’11年、チャリティイベントの一環として横浜・元町の商店街でF1マシンのデモ走行を実施。500m足らずの走行だったとはいえ、その姿を目に収めるために1万人を超える観衆が集まったという。公道をレーシングカーが走ることのインパクトと集客効果を知らしめた出来事だった。
レーシングカーが公道をただ走るだけでトピックになる日本という国で、公道レースが開催される環境が整いそうだ。自民党は6月22日、「自動車モータースポーツの振興に関する法律案」を承認。会期が延長(~9月27日)された国会に提出し、成立を目指すという。
モータースポーツの振興を目指すこの法案の目玉は、公道レースを円滑に開催できる内容が盛り込まれていることだ。開催実現に向けてはイベントごとに主催者や支援者、警察や道路管理者である国土交通省、自治体、住民の代表者などが協議会を設置し、課題をクリアしていく。このなかで手順を踏んで手続きをすれば、道路使用許可が降りる仕組みだ。
要するに、法案の成立によって国のバックアップが得られるということである。法案提出の背景には、公道レース開催を望む人々の熱い気持ちがあるに違いない。北京ではオリンピックスタジアム周辺で、モスクワでは観光の中心地である赤の広場の周辺でフォーミュラEが開催された。日本でも横浜をはじめ複数の都市が開催を希望していると聞く。法案が成立すれば、画期的なイベントの開催がグンと現実味を帯びることになる。