今、世界中で電動の乗り物による様々な試みが行われようとしている。レースに参戦したりソーラーパネルを張り付けた飛行機が世界一周に挑戦している。そんな中、ハーレーが開発した電動モーターサイクルが「ライブワイヤ」である。
伝統的なVツインエンジンで知られるこのメーカーはモーターを使って、これまであった内燃機関のモーターサイクルにはない楽しいマシンが作れないものかと考えた。そして完成したマシンを使って「プロジェクト・ライブワイヤ」を展開。世界中で試乗会を行い、多くのライダー達に意見を求めたのである。
僕が訪れたのはアジア方面でただ一つ行われたマレーシアの試乗会。初めて見た「ライブワイヤ」は想像していたよりもコンパクトだった。車格は単気筒250ccのロードバイクより少し小さいくらい。縦置きに搭載されるモーターは出力に換算すると74馬力。少し前のナナハン並だ(2000年代に製造されていたCB750は75馬力)。
最初に走行距離優先のレンジモードを選択して走ってみるとこれで十分にパワフル。市街地で交通の流れをリードしながら走る程度であればパワー不足を感じることはない。しかし凄かったのはパワーモードにした時だった。スロットルをひねった瞬間に猛然と加速して行く。96km/hまでの到達時間は4秒弱とビッグバイク並。しかし加速フィーリングはかつて経験したどんなマシンとも違っていた。特に凄いのはスタート時。滑らかに動き出したマシンが一気に最大トルクで引っ張られて行く様子は豪快だ。振動がまったくない状態での加速は強大なゴムで引っ張られているような感じ。下腹にスッーと寒気が走って思わずスロットルを戻し気味にしてしまったほどなのである。
起動時に最大トルクを発生するモーターの特性上、スピードが上がって来ると加速は鈍って来るが常用速度域ならばビックバイクと一緒に走ったとしても大きく遅れをとることはないだろう。
ハーレーはこの電動バイクの市販をまだ決定してはいない。しかし実現の可能性は非常に高いのではないかと思う。なぜならそこにハーレーが持つ強みと必然性があるからだ。ハーレーには圧倒的なブランド力や大排気量のビックバイクはあるが、気軽に乗ることが出来る魅力的な小排気量モデルがない。そこに「ライブワイヤ」はピタリとはまる。とても個性的なセカンドバイクなのだ。長距離はエンジン付きのモデルで出かければ良いわけで、こういう使い分けをするのなら航続距離の短さもさほど問題にはならない。事実、今回の試乗会に日本から訪れたハーレーユーザーのうち相当数の人達がこのマシンを気に入ってセカンドバイクとして購入したいと語ったのである。
本格的な電動ロードスポーツの時代が目前に迫っているのは間違いない。「ライブワイヤ」はその幕開けとなるのかもしれない。