F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 PLUS Vol.02 笹原右京への期待

 笹原右京がフォーミュラ・ルノー2.0での初優勝を飾った。カートで世界の頂点に立った右京は、’13年、’14年とフォーミュラ・ルノー2.0ALPS/NECシリーズに参戦した。

 ’14年にはイタリアF4にスポット参戦して優勝しているが、フォーミュラ・ルノーで表彰台の中央に立つのは初めてだ。

 フォーミュラ・ルノー2.0にはいくつかのシリーズがあるが、右京が初優勝を遂げたのは「NEC」と呼ばれるシリーズ。4月11日~12日にF1グランプリの開催地でもあるイタリア・モンツァで第1大会が行われた。予選2番手でスタートした第1レースで右京は、冷静さと剛胆さを巧みに使い分けたレース運びで先行車を追い抜き、先頭でゴールした。2番手からスタートした第2レースでは無理をせず着実に2位のポジションを狙い、望みうるベストの結果をたぐり寄せた。右京は「チーム、マシン、ドライバー、そして運。すべてがうまく噛み合った結果だと思います」と、初優勝したレースを淡々と振り返る。

 実は右京が’15年のメインに据えているのはNECではなく、4月25日に始まる「EURO CUP」シリーズだ。「ヨーロッパのドライバー市場にデビューするためのグローバルスタンダード。EURO CUPはそのなかで最もコンペティティブなシリーズで、強豪がそろっている」と右京は分析する。そのシリーズで「スピードを見せる」ことで次のステップへの足がかりを見いだすのが、’15年の目標だ。NEC第1大会へのスポット参戦はEURO CUPに向けた実戦テストの位置づけだったのだが、またとない弾みがつくことになった。

 ARTジュニアチームへの移籍もニュースだ。ARTグランプリはF1直下のGP2にシリーズ発足初年度の2005年から参戦しており、L・ハミルトンやN・ロズベルグ、N・ヒュルケンベルグがチャンピオンを獲得してF1へステップアップしている。右京よりちょうど10歳年長の小林可夢偉は、現在の右京と同い年だった’05年にフォーミュラ・ルノー2.0ユーロシリーズでチャンピオンを獲得すると、翌年、ART傘下のF3チーム入りを果たしてユーロF3に参戦。GP2(’08年)、F1(’09年)へとステップアップを果たした。

 同じような展開を見込んでのART入りか、の問いに「たとえEURO CUPで結果を残せたとしても、GP2へのステップアップはそう簡単ではありません」と、冷静に状況を分析している。ただし、「チャンスが生まれたときには、それをつかみ損ねないような準備はしておきたい」と意気込む。

 強いチームに有能なドライバーが集まるのは、チームにドライバーを見る目があるからだ。表彰台の常連だったわけでもない右京の「いい走り」に目を留めたARTからの積極的なアプローチに応える形で、ジュニアチーム入りが決まった。1つ目のチャンスはもう掴んでいる。さあ、次だ。

「カテゴリーを問わずいろいろなチームからオファーをもらった」(右京)が、コミュニケーションを深めていくなかで、「僕を求めてくれているという情熱を一番感じた」ことがARTジュニアチーム入りの決め手となった。「強豪がそろっているので結果を残すのは簡単ではないが、常に貪欲に取り組んで勝利を目指す」と右京。1996年生まれ、群馬県沼田市出身。熱烈な片山右京ファンである母親の希望で「右京」と命名。ヘルメットのカラーリングは、本家の配色をベースにアレンジしている。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

定期購読はFujisanで