オンナにとってクルマとは vol.54 思い込みと現実

 オーストラリアで三児の母として奮闘している友人と、久しぶりに会うことができた。学生時代、勉強ではまったくかなわず、スポーツはほぼ互角だった彼女に唯一、私が勝てるのはクルマの運転くらいだろうか。

 日本で何度か、彼女が運転するコンパクトカーの隣りに乗ったことがあるけれど、それはそれは頼りなくて冷や汗をかかされたものだ。

 でも、そんな彼女も今では、子供たちの学校までの送り迎えで、往復1時間の道のりを毎日運転しているというから、やっぱり女性は環境に鍛えられるもの。ほとんど信号のない道が多くて、うっかりスピード違反をしてしまった、と苦笑いする彼女に愛車を聞くと、「そりゃぁトヨタだよ」と即答する。その理由に、またしても環境のちがいを思い知った。「だって、ダンナがいなくて私と子供たちだけの時に、もし途中で故障でもしたら命にかかわるかもしれないから」

 オーストラリア人のご主人とも相談して、信頼性でクルマを選ぶとやっぱり日本車、それもトヨタがいちばんなのだと彼女は言う。日々の健やかな生活のために、まず第一に「故障しない」という条件でクルマを選ぶ。それがなんだか特殊なことのように聞こえるのは、周囲の多くの人が日本車に乗っている環境の私たちは、クルマが壊れるものだという認識が甘いからなのかもしれない。デザインや色や価格でどれを選んでも、まず故障なんてしないだろうと信じているところがある。

 でも、国交省が開設している「自動車不具合情報ホットライン」には、ピーク時で年に6,000件以上、ここ数年は3,000件以上の不具合情報が寄せられている。故障を経験した全てのユーザーが報告しているとは限らないから、実際はもっと多いはず。しかも統計によると、不具合が出た装置は原動機が1位、動力伝達装置が2位、制動装置が3位と、運転中に発生したら怖いところばかり。それに古いクルマが多いのかと思えばそんなことはなく、新車で購入したその年に故障している件数が最も多いのも気になる。

 今、緊急時の自動ブレーキなど、先進の安全技術がどんどん装備されるようになって、クルマの安全性も高まっているように見える。でもそれはすべて、まずクルマが正常に動いてくれてこそのもの。統計では車種までは記載されていないから、自分が買おうとするクルマの信頼性について、私たちはもっと知ろうとするべきだし、国やメーカーにももっと情報を明らかにして欲しいと思ったのだった。

文・まるも亜希子

Akiko Marumo

自動車雑誌編集者を経て、現在はカーライフジャーナリストとして、雑誌やトークショーなどで活躍する。2013年3月には、女性の力を結集し、自動車業界に新しい風を吹き込むべく、自ら発起人となり、「PINK WHEEL PROJECT」を立ち上げた。

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