オンナにとってクルマとは vol.52 愛車の買い替え、上書き保存? 別名保存?

 愛車の買い替えを検討している。あれがいいかな、これがいいかなと目移りして、なかなか決め手がないまま半年が過ぎようとしている。長引いている大きな原因は、今の愛車にこれといって不満がないのに、なんとなく心機一転したいという、ふわっとした理由だからである。

 思えばこれまでの愛車は、後先も考えぬまま勢いだけで買ってしまったり、ひと目見てビビビと恋に落ちたりしたクルマばかりだった。でも今は、どうせ買い替えるならば、大きくなってきた姪っ子たちが、快適にリアシートに座れることが望ましい。そして雪道でも心配なく走れることや、重たい荷物を私ひとりでも難なく積めたら、なおよし。そんな条件をクリアしようとしている。だから一目惚れはできないし選択肢は狭まるし、おまけに最後には、「心がトキメくかどうか」という関門を無視できない私がいる。多くの女性は、クルマ選びの時にそういった感情をスパッと捨て去ることができるらしいのに、私にはそういう女子力が足りないのかもしれない。

 でも、男性たちにこの悩みを話したところ、思いもよらぬ言葉が返ってきた。今の愛車に未練があるのに、なぜ「買い替え」なのか。「買い足せ」ばいいではないか。口を揃えてそう言うのである。聞けば、愛着や思い出を断ち切れず、2台3台と所有車が増えていく男性がけっこういるという。仕事用とドライブ用と鑑賞用で、気がついたら3台になっていたという男性がいれば、同じ車種のモデル違いを揃えたり、お金がない頃に泣く泣く手放した愛車が、また売りに出ていると知って買い戻してしまったという男性もいる。

 どれもこれも気持ちはわからなくはないけれど、買い足すというのはどうもしっくりこない。もしかするとクルマは「過去の自分の象徴」なのだろうか。買った頃と比べて、いろんな経験を経て価値観や環境が変わった今の自分がいる。そんな自分が、過去の自分と決別するひとつの方法として、愛車を買い替えようとするのかもしれない。

 昔の思い出を、男性は別名保存、女性は上書き保存すると言うけれど、愛車との付き合い方にもそれが当てはまりそうだ。私は思い切って強制的に上書き保存をしようか、それとも自然に過去の自分から脱皮する時を待とうか、もう少し悩みそうである。

文・まるも亜希子

Akiko Marumo

自動車雑誌編集者を経て、現在はカーライフジャーナリストとして、雑誌やトークショーなどで活躍する。2013年3月には、女性の力を結集し、自動車業界に新しい風を吹き込むべく、自ら発起人となり、「PINK WHEEL PROJECT」を立ち上げた。

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