今年でヨーロッパ在住25年目に突入する。すっかり慣れた、そんな顔で暮らしているが、正直なところ、近くなったと思うとすぐ遠ざかる欧州で、いまだ右往左往する毎日。
初めて経験することは少なくなったが、すでに体験したことでも、何故という視点で眺めるとわからぬことは山ほどあって可笑しいくらい。
たとえばデモ。不景気と政権への不信がつのった昨年はイタリアでもフランスでも過激なデモが多い年だった。いや、2013年にすでに目立っていた。それとも、もっと前からだっただろうか。
垂れ幕を掲げた人々がゾロゾロ歩く光景とは程遠い、抗議行動と呼ぶにふさわしい過激なデモが頻繁に行われている。ストで電車や飛行機がキャンセルになることにも、デモのために激しい渋滞にはまることにも慣れっこになったが、警官隊の出動、催涙弾の打ち込み、器物破壊から果ては死者まで、これほど激しい抗議行動にはいまだ違和感を覚える。
もっとも印象的だったのはフランスで起きた<エコタックス>への反対運動。ベルギーやオーストリアではすでに実施されているエコタックスは3・5トン以上のトラックを対象に走行距離と積載量に応じて課金される制度で、GPSを搭載したトラックが課税指定道路上に設置された、探知レーダー付きの橋を通過すると自動的に課税額が決まり、持ち主に請求される仕組み。エコに貢献するとは思えない上に、課金される側、特に小規模の運送会社にはクライアントに輸送費アップを要求できないぶん、不条理な制度。何より輸入品の増加によって販売不振と値下がりに苦しむ農民にとっては死活問題、それで大反発をくらった。実施か、見送りか、廃止かを巡って発表も報道もコロコロかわったが、結局、見送りになった。いや、廃止になった。今年の税制見直しの一環に組み込まれたともいわれている。とにもかくにも実施されなかったのは、探知レーダー付きの橋が破壊されたから。決定を先送りする政府の態度に怒りを爆発させたデモ参加者が、この制度のために建設された高額、新品の40もの橋を燃やしたり倒したりして、機能せぬようにしたのである。大きな橋が燃える光景がニュースに映し出されるたび、何処で起きていることかと唖然としたが、それは近くで起きていることなのだった。
「カゲキ」、他に言葉が浮かばない。過激だと言うたびに、しかし、愚息の反発を買った。愚息はクルマで遊ぶことが好きなノンポリの学生だが、その彼が「怒りのエネルギーが橋を倒した」と言い、こうでもしないと不条理なエコタックスは強行実施になったのだと彼らの肩を持つ。気持ちはわかるけど、それでも「やっぱりニホンだったらいくら怒ってもこれほど過激なことはしない」、こう言わずにはいられない。で、新春の朝もまた、言ってしまったのだが、すると初乗りに出掛けるという彼に激しく言い返された。
「高い自動車税とか高速代とか、ニホンにだってドライバーが怒ることはたくさんあるだろ。社会への怒りを日本人はどうやって表現してるんだ」。新年早々、ノンポリの母は考え込んでいる。
イラスト・武政 諒
提供・ピアッジオ グループ ジャパン
Yo Matsumoto