FEATURE1 300馬力の川重のシンボル「カワサキNinja H2R」

 「誰も体感したことのない加速力の提供」2104年9月30日、そんな刺激的な書き出しで始まるプレスリリースがカワサキから配信された。

 そこには近々『Ninja H2R』(以下、H2R)と名づけられたまったくのブランニューモデルが公開される旨が記載されており、近年稀に見るインパクトを伴って二輪業界をザワつかせた。その理由は単純明快だ。想像を遥かに超えるスペックが示唆されていたからに他ならない。

・水冷直列4気筒998㏄
・スーパーチャージャー搭載
・最大出力300ps
・トレリスフレーム
・レーシングスリック装着

 3,000文字以上が費やされていたプレスリリース全文の内、スペックに関する記載はこの程度。しかしそれで十分だった。二輪では極めて稀なスーパーチャージドエンジンが搭載されることと、そこから叩き出される300psという途方もないパワーが現実的な数値として発表されたことに、誰もが唖然としたのだ。

 H2Rは公道を走れず、さりとてレースも目的としていない。そういう意味で何にもカテゴライズされない一方、川崎重工業グループのあらゆる部門がその設計と開発に携わるという極めて特異な出自を持つ。エンジンの排気量と基本形式こそスーパースポーツ系の流れを感じさせながらも、そこに追加されるスーパーチャージャーには同グループのガスタービン&機械部門が、空力を左右するアッパーウイングとロアウイングの形状には航空宇宙部門が関与。他にはレース部門や新幹線部門なども含まれ、まさに川崎重工業の総力を結集したと呼ぶにふさわしい体制が敷かれたのだ。それを端的に示すのがカウル先端に備えられた川崎重工業のコーポレートアイデンティティ「リバーマーク」で、二輪に採用されたのはおよそ半世紀ぶりのこと。この巨大企業の象徴的な役割までもが与えられたのである。

 そんなH2Rの存在意義は、「高性能なマシンでライディングを楽しむ」という一点のみ。信じがたいほどピュアにそれを推し進めた結果、このカタチとこのスペックに行き着いたのだと言う。

 思えばカワサキは幾度となく時代の分岐点を作ってきた。’71年に初代H2でパワー競争を劇的に加速させ、’89年のゼファーで自らそれに終止符を打ち、そして’08年にはニンジャ250でクォータースポーツの世界を復権。折々で行き詰った状況を打破、もしくはリードしてきたメーカーと言えるのではないだろうか。

 では、H2Rがこれからどんな時代を切り開くことになるのか? それはミラノショーで公開されるスペックの最終仕様や価格、発売時期、なにより存在が公にされている公道バージョンの完成度如何だろう。この号を手に取って頂いている頃にはすべてが明らかになっているはず。続報を楽しみに待ちたい。

文・伊丹孝裕

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