F1マシンはいくつものセンサーを搭載し、各種コンポーネントが正常な状態かどうかモニターしている。タイヤの空気圧しかり、ブレーキディスクの温度しかり、ギヤボックスの油圧しかりだ。ハイブリッドシステムを構成する各種コンポーネントの温度も精密に監視している。
センサーが感知したデータは、車載する無線機からピットに送られる。ピットの裏にはコントロールルームがあり、受け取ったデータを分析するエンジニアが待機している。技術的にはピット側から遠隔操作し、マシンのセッティングを変更することも可能だが、それはレギュレーションで禁止されている。だから、異常を感知したり、セッティングを変更したりしたい場合は無線を通じ、ドライバーに指示を出すことになる。
ドライバーに送るこれらの無線メッセージについて、取り締まりが行われることになった。導入が決まったのは第14戦シンガポールGP前のことだ。「次の周でピットに入れ」とか「セーフティカーが出たぞ」といったメッセージは送ってもいいが、ドライバーのパフォーマンス向上につながるようなメッセージは送ってはいけないことになった。
F1はレギュレーションで、「ドライバーは独力で、誰の助けも得ずに運転しなければならない」と定められている。チームからアドバイスを送った結果パフォーマンスが向上した場合、この規則に反するというのが、無線メッセージの取り締まりを導入する理由だ。
どんなメッセージがOKでどんなメッセージがNGなのか、ルールを統括するFIA(国際自動車連盟)はこと細かに例を挙げて、チームに示した。例えば、「プッシュしろ」と単純にドライバーを鼓舞するメッセージはOKだが、「負けているのはセクター2だ。そこでプッシュしろ」という具体性のある指示はNGだ。ガイドラインが示されているとはいえ、グレーなメッセージが出てくるものと予想される。いったんはシンガポールGPで導入されたこのルール、今シーズンは取り締まりの枠をいったん緩くし、2015年に仕切り直しすることになった。
そもそもはF1マシンが高機能かつ複雑になり、監視しなければならない要素が増えたことが、ピットからドライバーへのメッセージが増えた背景にある。限られた燃料を有効に使うには、エンジンマップをどのポジションにしたらいいのか。というような判断を、走りに集中するドライバーに任せるのは酷だからだ。
無線の助けを借りながら走るドライバーはさながら、常にコーチの助言を耳元で受けているアスリートのような状態だった。アドバイスが受けられなくなるのを不安がるよりも、口うるさい助言から解放されることを歓迎するドライバーもいるようだ。
Kota Sera